第8話 まじめだけがとりえでして─《ええ加減》とも言いますが



《和子、死んだってよ》


《てめえが殺したんだろ》




八下の声が頭の中で反響する。





和子さんとは最近会ってなかった。

でも、私だって多忙だったし、せっかくトップ3に入ったから成績を落としたくなかった。それに、毎回和子さんが突撃してくるから私から訪ねたことなんてなくて、心配だったけど…私が行っても大丈夫かなって…思ってて……


「あんなに引っ付いてたクセに、薄情な奴だな……ブス」


八下の冷たい声がやけに頭に響く。


納得も理解も出来なくて、必死に思考を巡らせた。


過去の綻びが、ささくれみたいに痛んだ気がした。


─私のお祝いから3日後のこと。

散々な営業が終わってやっと帰る間際だったのに、八下に呼び止められ、ある書類を投げ渡された。


「お前、102のババァと仲良かったよな。この書類、書かせとけ」


「……なんの書類です?」


「関係ねぇよ。やっとけ」


「……だから、なんで私が……」



明日は休みなのにこれ渡されるということは、否が応でも“明日事務に渡せ”と言うことだった。

 

─八下の嫌がらせだと思った。

確かに和子さんとは仲がいいけど、休みの日まで“お守り”なんかしたくなかった。



「中に問診票とかも入ってっからちゃんと書かせとけよ」


「保険?これ……和子さんの分?」


「そんなとこ。じゃ、任せたからな。なんならお前が見てやれよ。《仲良し》だろ?」



何だか意味深な言い方が気になったけど、ようは和子さんの仕事だ。

とりあえず言われたことだけやろうと書類を和子さんに渡した。




「和子さん、これ、会社から。問診票と名前書いてって」


「まぁ、何かしら?」


「ワクチンとか?見てみてよ」


「分かんなかったらあやちゃん教えてくれる?」


「いいよー」




早速、和子さんの部屋で書いてもらう。その間、私は部屋にないテレビを観させてもらってた。




「ここってこれでいいの?」


「んー、書類通りにやれば良いと思いますよ」


とか言って、見てやらなかった。

だって、和子さんだっていい大人だ。

それに、勤務外で仕事するなんて面倒くさくてしょうがなかった。


仮に生命保険だとしてもうちでは当たり前にみんな書いてることだった。

和子さんがガサゴソと何かを引っ張り出して書き込んでても、気にもとめずにバラエティを見てた。


「あやちゃんがいて助かったわぁ!ありがとぉねぇ!」


「んー。じゃあもらっていくね」


特に何もしてない。テレビ見てただけ。


…本当に、『それだけ』だった。



それでも仕事はこなしたと思った。

八下に言われた通りに、渡された書類を和子さんに“書かせた”んだから。




私は“確かに”和子さんからその封筒を預かった。



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