第7話 あやちゃんのむかしばなしはハナさかない──だって人生バグってるし
私が営業成績3位を獲得した1週間後、
八下が私のアパートにやってきた。
たまにストレス発散で凸ってきて殴られることがあるから、
当たり前のように居留守を決め込もうとした。
……でも、ノックの音が違った。
妙に穏やかで、不気味なほど優しかった。
その違和感だけで、胸の奥がざわついた。
そのざわつきを誤魔化すように、そっとドアチェーンを外す。
「仕事。早く開けろ」
低い声がドア越しに届いた瞬間、心臓が跳ねた。
震えそうになる指を押さえつけ、両手でドアノブを握ってゆっくり開ける。
入ってきた八下は、いつもの小馬鹿にした薄ら笑いじゃなかった。
死体処理のときの、あの氷みたいな顔をしていた。
「──和子、死んだってよ。首吊り」
言い捨てるように、車を回せと命じられる。
あまりの急さに身体が固まった。
心臓が暴れすぎて、全身を震わせているように感じた。
気づけば私は──衝動的に八下の胸ぐらを掴んでいた。
自分でも信じられないほど無謀な行為だった。
「……どういうこと!? ねえ!」
八下は抵抗もせず、半開きの目で私を見下ろす。
「どうしたもクソもねぇよ。今日は車だけ出せ」
「なんで和子さんが死んだの!? まさかアンタが殺したわけ!?」
「あ? んな訳ねぇだろ」
八下の口角が、ゆっくり歪んだ。
「──てめぇが殺したんだろ」
背骨の奥を、内側から折られたみたいだった。
掴んだ手から力が抜け、その場に立ち尽くすしかない。
八下は、それを面白がるでもなく、
ただ無表情で私を見下ろしていた。
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