第3話 あやちゃんはしゃふ─社畜と地縛霊



上司にムカついて、2日で会社飛ぼうとしたら家凸されて殴られた。

詐欺会社って本当クソ。

社名が十個もあるような会社のくせに、飛ぼうとしたら暴力行使で脅してくんのなんなの?

筋が通ってねぇ。



「おいこら、ブスコラ。てめぇ平日昼間に居留守とは良いご身分だなぇえ?こら」


「八下さん、出てってください。明日出社しますから。今なら示談で──」


「あんだコラ?何今日はフケようとしてんだ。私服でいいから出てこいコラ」


少ない服を畳んでまとめてタワーにしたやつを八下さんは笑顔で蹴っ飛ばして部屋に広げる。そしてそれを踏みつけてまた私に笑いかけてきた。イカれたやつの笑い方だ。


「おいゴミクズ。俺直々に迎えに来てやってんだ。お礼は?」


「ありがとうございます」


「頭」 


「え?」


「下げろよ。土下座しろ」


「え?」


「聞き間違いじゃねぇよ。耳千切るぞブス」


しょうがないので土下座した。

そしたら頭を足で踏まれた。

人間として終わってる。

最低だ、この男。



「そうやって良い子にしてろよ?お前まで壊したらまた社長に俺が殺されるんだからな」


上機嫌な声に心の中だけでツッコむ。

じゃあこんなことしてんなよ。

私が死んだらお前も死ぬならこんなことすんなよ。だからこんなところから抜け出せねぇんだよ。馬鹿。



ま、それは私もか。



私は八下さんの後ろについてってカバンを肩にかけて玄関まで歩いていった。

その時、金属音のようなカチンカチンと言う家鳴りが頻回に鳴る。



「ここ、何人も死んでるところだからな。なんかいるかもな。お前は死ぬときは“死にます”って事前に言えよ?保険おりねぇからな」



八下は歪んだ笑みを私に向けた。

こういう奴ってなんで自分は安全圏にいるって疑わないんだろうな。

いつどうなるかなんて誰にも分かんないのにな。


金属音はまた“カチン”と鳴る。



「まだ、いいよ」



恐らく、家鳴りの原因と思われるものに声をかけたら少しだけ家鳴りは落ち着いた。



後ろを見る。

そこには髪が床につくほど伸びた黒い服を着た女と頬が耳まで裂けて舌が伸びた男の子がいた。そして私の前にいる八下を凝視している。


─その雰囲気は、多分、かなり怒ってるんだなって感じ。


女の伸びた爪が不可解な動きをしている。獲物を狙う猫みたいだと思った。

そして頬が切れた男の子は血走った目で殺意を込めて睨みつけている。


やられた本人以上に怒る幽霊ってのも珍しいよなと思って、頭をはたいてくるイカれ野郎の背中を追って重い足を動かした。



今日もいたいけな老人たちを騙しに行く。


結局のところ。


私も八下も堕ちる場所は決まってる。



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