第5話

 ゼマは甘味を楽しんでいた。


「うーん、桃うめぇ~」


 ゼマはギルドの食堂兼酒場にて、名物 完熟桃のクリームパフェを食べていた。仕事終わりの一服、といったところだ。

 彼女は酒好きで、基本的にはつまみとビールを頼むことが多い。


 しかし、今回パフェを楽しんでいるのには、2つ理由がある。

 1つは、まだ昼だということ。湿地帯は、今いるギルドのある首都から、そこまで離れていなく1,2時間で行ける。さらにモンスター討伐も手早かったので、クエスト所要時間は僅かだった。朝から活動したので、時刻はまだ昼過ぎだ。


 2つ目は、ここ自然の国では、果物が盛んでフレッシュかつジューシーなフルーツが名産だ。それを楽しまないのは、この国ではナンセンスだ。


「このみかんも、最高です……。っう」


 ララクが頼んだのは、まるごとミカンのシャーベットアイスだ。湿地帯にいて少し汗をかいたので、冷たい食べ物が体にしみわたる。あまりにもおいしくて、ララクは軽く頭がキーンと痛くなった。どれだけスキルを得て強くなっても、こういった内傷は防げないんだな、と教訓になった。


「はぁー、最高~。ん~、でもここから暇だよね。

 どうする? もう1個ぐらい、クエスト受けちゃう?」


 ゼマはパフェをペロりとたいらげる。彼女はまだ、働く気満々のようだ。彼女は冒険者の仕事を趣味とも感じているので、クエストには乗り気な事が多い。


「いっちゃいましょうか。それじゃあ、探しに……」


 ララクは何とかアイスを完食すると、ギルド内にあるクエストボードに目をやる。そこにはクエスト内容が記された依頼書が数多く貼り出されている。冒険者はそこから自分に合ったクエストを選んで受注するのが、ギルドの一般的なシステムだ。


 彼らが席を立ち上がろうとした時だった。


 クエストボードのほうに1人の冒険者がいた。成人女性で、角と獣の耳が生えている。彼女はララクたちに気がついていた。

 そして、ボードから1枚の依頼書をはがすと、そのまま受付ではなくララクたちの方へとやってきた。


「どうも~、ちょっとお話いい?」


 スタスタとブーツを履いた足でやってくる女性冒険者。艶のある紫のロングヘア—の上から、小さめの角と、犬の耳がはみ出ていた。魔人と犬人のハーフのようだ。

 腰には剣の入った鞘が取り付けられており、剣士なのだろう。他に仲間はいないので、ソロのようだ。


「ん? なに?」


 立ち上がるのをやめて、打って変わってダラっとイスに深く座り込むゼマ。話しかけてきた女性のほうを、適当に見上げる。


「私はキリリッサ。実は、一緒にクエストをしてくれる人たちを探しているの。そこで良かったら、というか、わりかし絶対、力を貸してほしいんだけど」


 彼女はクエスト用紙をの端を両手で掴んで、胸元のところに持ってきて、ララクたちに見せるようにする。


 そこには、クエストの内容、そして依頼主の名前が記されていた。



「※急募! 宝探しを手伝って!」


 首都近くにある古代遺跡。そこに伝説の宝が眠っている、って噂があるんだけれど、私は誰よりも先に見つけたいの。

 だから、手伝ってくれる人を探してるの!

 遺跡は広いみたいだし、人手がいる。もしかしたらモンスターの巣窟になってるかもしれないし、仲間が必要なの。

 誰か、私を手伝って!


                      依頼主・冒険者キリリッサ



「……えっとこれ、キリリッサって……」


「これあんたが書いたの?」


「そう! さっき作って貰ったんだけどさ、ちょうどいいところにあなたたちがいたから!」


 彼女が持っているその依頼書は、彼女自身が依頼したものだった。冒険者がクエストを依頼することももちろんある。装備の作成に必要な素材の確保、臨時で加入してくれる人の募集、などなど。比較的珍しいが、ないことはない。

 しかし、直接自分からアピールしてくることは稀有かもしれない。


「ちょうどって、ボクら以外にも冒険者いますよね?」


 ギルドの中には、ララクたち以外の複数の冒険者パーティーがいる。クエストボードを見て選んでいる物、次の冒険の準備や打ち合わせをしている物など。

 ただ、まだ昼過ぎということもあって、仕事を終えたような人たちは見受けられなかった。


「だって、さっき仕事終わったんでしょ? しかも、早期解決だって。受付の人から聞いたよ。

 っね、お願い! 少ないけど、ちゃんと依頼料払うから」


 剣士キリリッサは、バシッと依頼書をテーブルに置いて、空いて両手を合わせて頼み込む。まくしたてるような早口だった。


「っえ、えーと、どうしましょうか……?」


 気負いの凄い剣士キリリッサに、戸惑うララク。パーティーのリーダーではあるが、2人しかいないのでゼマの意見も尊重している。なので、彼はゼマの方をちらっと見た。


「いいんじゃない? どうせ、仕事するつもりだったし」


 軽く了承する彼女だが、言葉に反して溶けそうな生卵のようにぐでっとした格好で椅子に座っている。ララクとは違い、キリリッサのトーク速度を気にしていないのだろう。


「ほんと!? いやー、助かっちゃう!

 ありがとう! リーダーさん」


 そう言って犬耳をピンと伸ばすキリリッサが手に取ったのは、ゼマの手だった。彼女の椅子の下までぶら下がっていた腕を握って、強制的に握手をする。


「……距離詰めるの、はや。

 まぁそれはいいんだけど、あんた勘違いしてるよ。

 リーダーはあっち」


 顎をくいっと動かすゼマ。それに連動するように、キリリッサは視線を動かす。その先にいたのは、気まずそうに笑みを浮かべている少年ララクがいた。


「……どうも、冒険者パーティー・ハンドレッドのリーダーを務めていますララク、です」


「っあ、っま、そっち……??

 はは、よろしくリーダーちゃん……」


 剣士キリリッサは慌てて話を進めたことが、急に恥ずかしくなった。

 彼女はさりげなく、ゼマの手を離して、さりげなくララクの手を握った。

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