物語を書く理由

千桐加蓮

物語を書く理由

 小学六年のとき、初めて物語を書いた。兄妹の話だったと思うが、もうほとんど忘れてしまった。


 本格的にプロットを立て、キャラクターを作り込んだ物語を書こうとしたのは、中学三年になったばかりの頃だった。


 ――では、なぜ物語を書きたいと思ったのか。


 きっと、現実逃避がしたかったのだと思う。

 中学受験に失敗したからかもしれない。

 私にかけられた時間や労力、お金――それが無駄になったからかもしれない。

 いや、もっとずっと昔からのことかもしれない。私は、一人になりたかったのだ。


 周りの大人たちは、みんな夢を追っていた。

 父は車、母方の祖母は男性に頼りきり。祖母の旦那(私の祖父)は私が生まれる前に亡くなっていたので、長男に頼ってばかりだった。

 もう祖母と叔父には七年会っていないが、祖母が通っていたシャコーダンスの男性コーチに私を利用して媚を売ろうとしたこともあった。十歳にも満たない私には理解できない出来事だった。

 コーチは遠慮してくれていたのか、ただ私に興味がなかったのかもしれない。


 今年の夏、『ちはやふる〜めぐり〜』のドラマを見た。

 最近で一番泣いた作品だった。


 幽霊部員のめぐるが、競技かるた部の顧問である大江先生と出会い、高校生活が少しずつ変わっていくというストーリー。


 めぐるが語る中学受験の失敗。その中で、両親が子どもが寝たあとにこう語る場面がある。


「あのとき、めぐるの中学受験に使ったお金、投資に回してたら、今ごろFIREできてたかもね」


 見た瞬間、目頭が熱くなった。心音が早くなり、胸が締め付けられた。

 かつての小学六年生の私は、その重圧に押し潰されそうだった。

 自分のためにかけてくれた期待と塾代が、すべて無駄になった。自分でもそう感じていたのに、両親に言われたらもっとつらくなる。

 辛すぎてたことを忘れてしまったことはたくさんあるが、その最初が中学受験だったのだと思う。


 あ、そうそう。「物語を書きたいと思った理由が現実逃避」なんて、もう少し熱量があってもいいのに、と思う自分もいる。


 物語を書くことは、私にとって「昇華」でもある。


 私は論理と合理性を重視してしまう。

 一人の時間がないと生きていけない。

 そんなときに、書く。

 人間に興味がないので、自分の分身や憧れを持った人物や信念をキャラクターに投影する。

 そうやって、私は書く。


 だから、ストーリーから先に決める。

 本当は「こういうキャラクターを書きたいから、このストーリー」という形が自然だと思っている。でも、私は人に関心が持てず、授業でキャラクターを描くのにも苦戦している。

 人間観察をしても、その人の癖や話し方に居心地の悪さを覚え、すぐシャウトアウトしてしまう。

 異性との関係も優柔不断な方にだんだんと冷めていった。あくまで作品の中に閉じ込めるだけだ。


 だから、影響を受けた考え方は超ネガティブかもしれないけれど

「期待しすぎない」こと。


 そんな私を一番投影させたのが、この前「U-24」に参加した作品『きみの神話を見ていた』の藍沙ちゃんだった。

 藍沙ちゃんは、中学二年生の私に一番似ている。でも、男の人に媚びたりはしていない。

 だから最近で一番書きやすいキャラクターだった。

 審査に影響があるかもしれないので作品については深く触れない。


 最近、女性アイドルに興味を持ち始めたのも影響しているのかもしれない。

 よかったら、『きみの神話を見ていた』のリンクもご覧していただけると幸いです。


「きみの神話を見ていた」

https://kakuyomu.jp/works/822139839158642317


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