第3話 初召喚!
この世界の情報をある程度教えてもらった僕は、
まず最初に向かったのは中央にある噴水で、その周りにある芝に寝そべってみた。
(うーん、気持ちいい!)
この部屋はアドステアの一日とリンクしているらしく、ちゃんと夜になったら暗くなるのだとか。召喚獣は食事も排泄も睡眠も必要ないけど、必要ないだけでできないわけじゃないらしい。あっ、排泄はできなかったか。
試しに噴水の水を飲んでみたら普通においしく感じた。味覚があるのは元日本人としてはありがたい。これで楽しみが一つ増えたね。
それから、勇気を出して他の召喚獣に話しかけてみた。けど、簡単な単語は返ってくるけど会話にはならなかった。どうやら、レベルが低いと知能もあまり高くないらしく、レベル1で会話が成り立つ僕の方が珍しいそうだ。
そんな感じでのんびりしていたら、急に目の前にウィンドウが現れた。
【召喚要請が届きました。召喚主とレベルが同じのため、強制召喚となります】
ついに、僕がアドステアに召喚されるときが来た。どんな人が僕を召喚したのだろう。大きな期待とわずかな不安を感じながら、僕は光に包まれた。
▽▽▽
「わあ! かわいい! これがわたしの初めての召喚獣!」
光が収まったとき、僕はどこかの庭のようなところでちょこんと座っていた。目の前では高校生くらいの女の子が僕の方をじっと見つめている。どうやらこの子が僕の召喚主のようだ。
茶髪のショートカットで、いかにも元気いっぱいといった女の子だ。顔は控えめに言って超かわいい。こんな子と100日間も一緒にいると思うと、ちょっとドキドキしてしまう。頑張って死なないようにしないと。
「おいおい、かわいいのはいいけど戦えるのかそいつ? 足が短くてどんくさそうだぞ」
よく見たら、少女の後ろに同じ年くらいの三人の男女が腕を組んで立っていた。彼らの足下には召喚獣と思われる生き物が控えている。
金髪で片手剣を腰に差している少年の足下には、白い狼型の召喚獣が静かに佇んでいる。うん、普通に強そうだしかっこいい。
日本ではあまり見ない、緑色の髪の少年は背中に弓を括り付け、その肩に黒い鷹のような鳥がとまっている。こちらも鋭い目つきでかっこいい。
そして、一際目立つピンクの髪の少女は、木の杖を身体の前で握りしめている。もしかしたら魔法使いかもしれないね。その足下には白いウサギ型の召喚獣が座っているのだが、その額には角がついている。昔見たゲームの中の魔物に似ているな。
「みんなレベル1だし、召喚獣の強さは見た目じゃないってことはわかってるでしょ!」
僕のことを庇ってくれる女の子。性格もよさそうだ。ますますやる気が湧いてきた。それにしても、他の召喚獣は随分強そうだけど、レベルは1なのか。なんだか不思議な感じがするね。
さて、彼らの格好や会話からも魔物を倒すために召喚されたとわかってしまった。いよいよ、僕の第二の人生が始まる。僕は短い足を動かしながら、召喚主の女の子の元へとてとてと歩み寄っていった。
▽▽▽
「よし、じゃあ早速戦わせてみようぜ! 相手はビッグラットだ、油断するなよ!」
僕が召喚されたときに最初に話しかけてきた少年がリーダーのようで、このパーティーを仕切っている。彼の名前はイルマで、弓を持つ少年はザッシュ、杖を持つピンク髪の少女はルーンという。ちなみに僕の召喚主はサラで、今は短剣を二本両方の腰に差している。
ただ、この世界のメインの戦闘力はやはり召喚獣のようであくまで人間達はサポート中心のようだ。
今僕らの目の前にいるのは、大きなネズミ型の魔物だ。見た目は明らかにこちらの方が強そうだが、そこはレベルやステータスがものをいう世界。油断は禁物だ。
「ロウ、いけ!」
「ホーク、空から攻撃だ!」
「ラビ、タイミングを合わせて!」
イルマ、ザッシュ、ルーンが自分達の召喚獣に指示を出す。その指示を受け、動き出す召喚獣達。
「ムギ、頑張って!」
かわいい召喚主の応援を受けて、僕も行動を開始した。
(ん? 随分ゆっくり動くんだな)
わざとなのかはわからないが、こちらの召喚獣がゆっくりとビッグラットへと向かう。何かの作戦かもしれないから、僕もそのスピードに合わせて近づいていく。
キィィィ!
四対一ではあるが、ビッグラットの方が動きが速い。レベルが高いのか敏捷が高いのかはたまたその両方か。
白い狼ロウの噛みつき攻撃がきれいに避けられ、逆に土手っ腹に体当たりを受けてよろめく。黒い鷹のホークも上空から急滑降しビッグラットにつかみかかるが、大きなネズミは身体を回転させ爪を弾いてしまった。
白い角兎のラビはその角で一撃必殺を狙っているのか、じっと
「こいつ、ちょっとレベルが高いぞ! 気をつけろ!」
リーダーのイルマの大声が飛ぶ。僕らがレベル1だとしたら、こいつはレベル3くらいあるのかな? だけど、正直僕は戸惑っている。なぜなら必死に戦っている彼らの動きがあまりに遅く感じられたからだ。
(ひょっとして、敏捷8ってこの中じゃ結構高い方なのかな?)
考えられることとしては、女神様から貰った加護で初期ポイントが倍になっていたことだ。それを攻撃力と敏捷に極振りしたから、レベル1としては破格のスピードを手に入れたのかもしれない。足はこんなに短いけど。
「ピィィ!」
身体を回転させてホークの爪を弾いたビッグラットは、鈍重そうな身体からは想像もつかないほど軽やかな動きでホークに飛びつき叩き落とした。
「ゴアァ!」
さらに着地の瞬間に再び鋭く跳躍し、ロウの後ろ足に噛みついた。叫び声を上げるロウの傷口から流れ出る魔素。
「今よ、ラビ!」
ロウが暴れたことで口を離したビッグラット目がけて、ラビの渾身の一撃が襲いかかるが、スピードのないその突進は簡単に避けられ逆に背中を無防備にさらすことになってしまった。
そのままラビに後ろから襲いかかるビッグラット。
「ムギ、お願い!」
そのピンチにサラが悲鳴に近い声を上げた。ようやく僕の出番が来たようだ。
僕は短い足で軽やかに地面を蹴る。少し距離があったにも関わらず、ビッグラットがラビに追いつく前に、僕の爪がビッグラットの背中を捉えた。
ザシュ
勢いよく振り下ろされた僕の爪は、ビッグラットをきれいに三枚におろしてしまった。三分割されたビッグラットが地面に落ちる。攻撃力8もこの中ではかなり高い方だったみたいだ。ビッグラットを一撃で倒せるくらいには。
あっという間に魔素が流れ出たビッグラットは、一つの黒い石と硬そうな前歯を残して消えていった。
「「「…………」」」
役目を終えた僕は、なぜか固まっているサラの足下に戻り自然と毛繕いを始めた。何か、この猫の身体にも慣れてきた気がする。
「えっと、今何が起こったんだ?」
フリーズから再起動したイルマが困ったようにメンバーの顔を見回す。
「俺の目にはムギがビッグラットを一撃で倒したように見えたが」
ザッシュが自信なさげに答える。
「私はラビが襲われると思って目をつぶっちゃったから、何が起きたのかわからない……」
ルーンがそう告げたところで、全員がサラに顔を向ける。
「あは、あはは! うちのムギちゃんがやってくれました! なんか、ムギ強いみたい?」
僕の召喚主であるサラも、僕の強さに疑問符がついている。
「いやいや、強すぎるにもほどがあるだろ! 今のビッグラットはレベル3はあったぞ。それを一撃って、ほんとにそのムギはレベル1なのか?」
イルマがサラに詰め寄るが、僕は間違いなくレベル1だよ。サラもそう説明してくれている。
【レベルが上がりました。ステータスポイントを振り分けてください】
おや、今の戦闘でレベルが上がったようだ。やっぱりレベルが上がるとまた10ポイント貰えるようだ。と思ったら、女神の加護が発動してさらに10ポイント手に入れちゃいました。もしかしてこれ、レベルが上がる度に追加で貰えるのかな。
僕はサラが必死に僕のレベルは1だと説明している間にステータスの分配を済ませた。
名前 ムギ
真名 ???
レベル 2
体力 1
魔力 1
攻撃力 15
防御力 0
魔攻力 5
魔防力 3
敏捷 15
加護
バステトの加護
ミスティルの加護
魔法のスキルを手に入れるために、少し魔法攻撃力と魔法防御力にステータスを振っておいた。そうそう、忘れていたけど加護も確認しておかないとね。僕がステータスの加護のところを意識してみると……
バステトの加護:全状態異常無効 体力自動回復 魔力自動回復 最高の毛並み
ミスティルの加護:取得経験値二倍 取得スキルポイント二倍
はい、とんでもないチート能力でした。
色々疑われはしたが、僕が強制召喚だったことは間違いないと伝わっていたようで、最終的にはレベル1だと信じてもらえたようだ。
何はともあれ、戦利品を手に入れて嬉しそうに帰っていく彼らを見ながら、楽しい100日間になりそうだと感じていた。
召喚獣はじめませんか? ももぱぱ @momo-papa
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