つひにも死ぬる
「頼んでいたものは?」
鍛冶屋と研究者の掛け合いに全く構わず、弦が話を進める。
鍛冶屋が「ふん」と応えて、布袋を手近なテーブルの上に置いた。
じゃら、という金属音が重そうに響く。
「ご指定の通り9パラのホローポイント、じゃが、先に言っといた通り、手打ちだから完全均一規格通りってわけにはいかん。代わりに薬莢に詰めるところまでやっといたったわ」
「弾薬量は?」
「1割増じゃろ?」
質問に質問で返されて、弦は黙って頷いた。
弦が現役時代から愛用している
が、それは弾頭に霊子が含まれていないのが原因。
ならば、霊子が含まれている弾頭を作れば良い。
つまり、ダンジョン内で採掘された鉱石から鋳造すれば普通に霊子を含有している弾頭になり、一転、豆鉄砲がダンジョン内で有効な武器となるわけだ。
ただしダンジョン内に工場を建てて機械生産できるわけがなく、昔ながらの鍛冶での手作りしかない。
その鍛冶道具とて、現代世界から持ち込んだ霊子が含まれない道具では通用しないのだから、石器時代さながら石で打つところから出発して作り出し直す必要がある。
眼前の老体はそれを実行した、ある意味狂人なのだ。
弾丸をいくつか見比べる。
本人は謙遜しているが、弦の目には差異が認められない。十分な精度だろう。
そこに鍛冶屋の手が割って入る。
「これは餞別じゃ。もってけ」
手渡されたのはコンバットナイフ、刃渡りが17cm強ほどのシンプルな逸品だった。
そう、ひと目で逸品と分かる。鍛造の刀に見られる刃文が緩く描かれている。
「ここでようやく
言葉とは裏腹に、姿勢には自信が感じられる。
「上等すぎる」
「
押し問答で押し付けられて、ごく軽く首を傾げる弦。
困惑しているのを読み取って、女が背中を叩いた。
「いーんじゃない? 本人がそう言ってるんだしぃ。餞別ってのは大げさだと思うけれどねえ」
「ふん。お主のような鬼畜に弄られた挙げ句に行き先があやつなら、餞別じゃわい」
「ひっどいなぁ、ちゃんとストッパーはかけてるしー? 二重にかけてるしー?」
掛け合いが再発。どうにも相性の悪い二人らしい。
構わず、弦は弾丸とナイフを仕舞う。
「恩に着る」
「おうよ」
「結果報告よろー」
狂人と鬼畜に見送られ、軽く手を挙げる弦。
その姿がランタンの向こう、影の先へと消える。
ダンジョンの一角を天井まで埋める、無秩序な増築でそれ自体が迷宮と化した、異界に潜む無法街の中を。
次の更新予定
蠱毒窟――The Walled City of Hannibals―― 橘 永佳 @yohjp88
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