K-o989号発射
@CowardD
K-o989号発射
「150、149、148⋯」
管制塔からの秒読みが淡々と伝わってくる。
それは今僕が搭乗しているロケットK-o989号が発射するまでのカウントダウンだ。
僕はついに憧れていた宇宙飛行士になったんだ。
座席は仰向けに近い角度で、座った状態で背中越しに感じる重力と、コックピットの窓から広がる青空が見える。
このどこまでも広がっていそうな青空が黒色に変わるまで上昇すると、そこは宇宙空間が広がっており、僕の目指す星がある。
「130、129、128⋯」
「心拍数上昇、心身冷却装置起動」
ダメだな。
いざこうして本番を迎えると、やっぱり緊張する。
どうにかこの気持ちを紛らわせないと。
ちょっとおかしな話なんだけど、僕は夜空に輝く星を恋愛に例えたことがある。
女の子は星の数ほどいる。
でも星に手は届かない。
だから恋に落とすんじゃないか。
恋愛をしたことがない僕の意見は、信憑性が低いかもしれないけど、この表現は実に的を射ていると思う。
「102、101、発射100秒前⋯」
まず、女の子は星の数ほどいる。
そりゃそうだ。例えば人類の半分が女性だとすると、その数は膨大であり、夜空の星と比喩しても違和感はない。
だがそんな当たり前の事実に気づかない人は多いんだ。
忙しい人の視線は常に前を向いてる。
ふと立ち止まった時、夜空を見上げると、その星たちの膨大な量に驚き、同時に美しい輝きに見惚れてしまう。
「80、79、78⋯」
「肺胞内空気充填開始、深呼吸をするんだ」
⋯⋯そしてその美しい輝きを求めて星に手を伸ばす。
でもそこで初めて気づくんだ、星たちは僕たちがいるこの場所から、何億光年もかけ離れている場所にあることに。
不思議なことに人間は自分で手を伸ばさなきゃ、その事実には気づかない。
その事実にたどり着いた多くの人が、星に手が届くことは不可能だと思ってしまう。
⋯⋯僕もそう思った一人だ。
「62、61、60⋯」
「発射1分前、血圧の安定化を確認」
だけど、その事実をひっくり返すような行為がある。
だから恋に落とすんじゃないか。
星には届かない。
それが分かっているから恋に落とす。
そうすれば、届かない場所にある星でも、彗星のように自分の所に落ちてくる。
そうして星と一緒になった人たちが恋愛を成就させることができる。
人によっては簡単な行為と思われるかもしれないが、僕にとってはこのロケットの発射と同じくらい、難しいことだ。
届かないことを悟り、試行錯誤を何度も繰り返し、ずっと悩み抜いた結果、その果てにできる行動だと思う。
「発射30秒前、29、28⋯」
「さぁ、いよいよだ。息を大きく吸って⋯真っ直ぐ前を見て⋯メインエンジン起動⋯」
僕は真剣な眼差しを前に向けた。
僕は星を恋に落とせるような人間ではない。
そういう風になろうとも思わない。
でも今もこの手は、あの果てしなく遠い星に向かって伸びている。
ここからでは決して届かない。
恋に落とすなんてことはしない。
だから僕は――。
「発射10秒前、9、8、7、6⋯」
星に向かって飛び立つんだ、この場所から!
「4、3、2、1――」
「メインエンジン点火!K-o989号
『好きです!付き合って下さい』
僕の瞳に映るのは、ずっと好きだった
管制塔の声も、ロケットの発射も、全ては僕だけのもの。他の誰にも聞こえてはいない。
でもこの告白は僕の人生の、ロケットの打ち上げなんだ。
「0――K-o989号
よしっ!
瞳に映る
僕は今地上を離れ、
空の色が黒くなってきた!
もう少しだ!あと少しで、
どうだ!?
「いいぞ!目標地点までもう少しだ!」
きっといい反応――
『⋯⋯⋯⋯⋯⋯ごめんなさい』
しばらくの沈黙の後、その言葉で僕は目指していた
「メーデー!メーデー!こちらK-o989号管制塔!緊急事態発生!心身の激しい損傷を確認!メインエンジン停止!」
あ⋯⋯えっ⋯⋯⋯そんな⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
「航行不可能!推進力喪失!間もなく大気圏に突入する!衝撃に備えろ!」
あ〜あ。
これすっごい落ち込むやつだな〜。
僕は操り人形の糸が切れたような状態になり、重力に引っ張られ、大気圏に突入し、激しく燃えていく。
例えこの大気圏を抜け、無事に地上に落ちた後でも、僕はまた
K-o989号発射 @CowardD
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