夢こそまこと

湾野薄暗

創作なんです。

創作ってことにしてください。

私がそう思った、そう思ってしまっただけのことに過ぎないんです。


今、現在は書いておりませんが一時期、夢日記を書いていた事がありました。

もう数年前の話です。

夢日記は良くないですね。

夢の記憶なのか、はたまた現実の記憶だったのかの境目がぐにゃりと歪み、分からなくなることもありました。

頭の中で処理しきれなくなるのです。


この当時の私は怖い話によく出てくる『信頼できない語り手』に当てはまると思います。

それを念頭に置かれますと幸いです。


そんな夢日記の中で定期的に見ていたものに

『廃墟裏の喫茶店』がありました。

夢の内容は廃墟裏の道を下った所の喫茶店がとても良いと夢の中では母が言うんです。

だから二人で行こうとするんですが辿り着かなかったり店休日だったりと廃墟裏の喫茶店に入れたことはなかったのです。

三、四回はこの夢を見ていると認識した頃でしょうか。

再びその夢を見たんです。

しかし起きてから考えてみると違ってました。

廃墟の窓が開いており、レースのカーテンが窓から飛び出してパタパタとはためいているのが見えました。

夢の中で夢と気づいてなかったので全く何も思わずに道を進みました。

そして下り道の道中にうさぎの着ぐるみが落ちていて、それを避けながら進むと廃墟裏の喫茶店が営業してました。

店に入ると内装はこじんまりとした病院のような所で、窓からは温かい日差しが入ってきており、どちらかと言えば診療所ぐらいの大きさだったかもしれません。


その時に母が店内にいないことに気付きました。

いずれ戻ってくるかと白いテーブルクロスがピンと張られた丸いテーブルについて、ふと真正面を見ると母の弟である叔父が座ってました。

そして何も一言も話さずに出されたスープを掬って一口飲みました。

叔父も少し掬って飲んでました。

味は思い出せませんがとても冷たいスープでした。


そこで目が覚めました。

真夏なのに指の先が冷たかったので冷房の温度を上げようと起き上がり、ふと気付きました。


常夜灯に照らされて輪郭がわかりましたが窓も開けていないのに家のカーテンが大人が潜っているかのような不自然な形になっていることを。


それを勢いでめくると誰もおらずに安堵したのも束の間、夢の中の廃墟を思い出しました。

夢の中の廃墟の外観が現在は廃墟になって長らく放置されている母の実家だったのです。

そして目の前で一緒に食事をした叔父は失踪して、もう死亡宣告が出たんです。


私は死者と食事をしたということに気づいた時に『あぁ、もう、あの家からは逃げられないのか』とストンと自分の中で腑に落ちてしまったんです。


だから、これは創作なんです。

創作ってことにしてください。

よろしくお願いいたします。

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