最終話

あれから10年が経ちました。


アリスは、

宮殿の王室の間で、

女王に即位する戴冠式たいかんしきに出席していました。


出席者たちからは、

お祝いの言葉が花のように咲き乱れました。


アリスは微笑んで答えました。


「ありがとう。

みなさんのおかげよ」


外の天気は、

あいにくの雷雨でしたが、

宮殿ではアリスの戴冠式が始まりました。


アリスは煌びやかな王冠をいただきながら、

心の中は不安でいっぱいでした。


なぜなら、

あのピンクの湖ほうで、

雷が特に激しく鳴り響いていたからです。



───



翌日、

アリスは10年ぶりに、

馬車に乗って、お忍びで、

ピンクの湖を訪れました。


石像になったアベルは、

昨日の雷雨に洗われたのか、

不思議なほどピカピカでした。


魔女が消えた場所は、

得も言われぬ妖しい香りが漂う、

美しい花園になっていました。


アリスは、

そこから花を摘んで、

石像に花を手向けました。


そして、

石像にくちづけすると、

なんと、

石像の魔法が解けて、

銀色の天使が現れました。


この10年のあいだに、

アベルの中に残っていた悪い心根こころねが、

完全に浄化されて、

銀色の天使になったのでした。


「あっ。

石像の呪いが解けた!」


「わっ。アベル。

ビックリしちゃった」


「アリス、ありがとう。

この時を待っていたよ」


「アベル、どういたしまして。

あなた、とうとう天使になったのね」


二人は再会を喜び合って、

ハグしました。


アベルは心を込めて言いました。


「アリス。久しぶりだね」


「そうね。10年ぶりかしら」


「そんなに経っていたのか」


「ほんと。10年なんて、あっという間ね」


「アリス。その王冠は、もしかして……」


「そう。私、この国の女王になったの」


「それは、おめでとう。僕もうれしいよ」


「ありがとう。

それにしても、元死神が、天使になるなんて」


「それを言うなら、アリスだって。

元じゃじゃ馬が、女王になるなんて」


二人は思わず爆笑してしまいました。


そして、二人はしばらく見つめ合っていました。


アリスは淋しげに言いました。


「久しぶりの再会。

とっても嬉しいけど、

私には守らなければいけない国があるの」


銀色の天使のアベルは頷きながら応えました。


「もちろん、分かってる。

僕にも天使としての使命がある」


「私たち、

こんなに気持ちが通じ合っているけど、

お別れが最良の選択じゃないかしら」


「僕もそう思う。

こんなに気持ちが通じ合っているからこそ、

お別れしよう」


二人は最後に、

もう一度ハグをしました。


そして、

銀色の天使になったアベルは、

天高く舞い上がると、

シャボン玉のように、

パッと消えました。


アリスはそれを見届けると、

待たせていた馬車に乗り込み、

宮殿へ帰っていきました。


二人が去ったあと、

花園に身を潜めていた、

魔女の最後の怨念のような、

真紅の蝶が舞い上がりました。


真紅の蝶は、そのまま、

ピンクの湖ほうへ舞っていくと、

つむじ風に巻き込まれたかのように、

ピンクの湖の底へ沈んでいきました。


そして、

真紅の蝶の落下は、

ピンクの湖の水面に、

美しい波紋を生み出しました。


奇しくも、

真紅の蝶の墓場となったピンクの湖は、

この10年の浸食で、

ハートの形になっていました。


それはまるで、

アリスとアベル、

それぞれの未来を祝福しているようでした。






















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王女アリスの駆け落ち ~お相手は死神でした~ 滝口アルファ @971475

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