日常を掬い上げ哲学へと変える、深く楽しい大人のための三連作

日常の些細な出来事から、普遍的なテーマを引き出す力量が感じられるエッセイ三作。
一話は「二つとも買ってしまえ」という決断から、しだいに「怖くなる」という心理的転落へのグラデーションが見事です。
二話では、「詰め放題」のビニール袋の心もとなさの描写が非常に具体的で、一緒に緊張感を味わいました。三話は、小石という極小の現象から、身体の歪み、記憶、時間、人生の厄介事へと自然に拡張していく構成が卓越。この作品が特にすばらしい。
第一話は知っていましたが、新しく書かれた二編も、「美人な河豚」という人物描写の絶妙さや、年月を経てスタッフの赤ちゃんが成長していく時間の流れ、ビーチサンダルのダリアの花の瑞々しい描写など、感心させられる箇所がとても多く、おいしいコース料理をいただくように、噛みしめながら、楽しく読ませていただきました。みなさまも、どうぞ。