第5話 再出発でもっとボンビーに
義父と馬さんの努力が全て水の泡と消えた後、家を手放した我らは其々で住む所を探し、義母と馬さん夫婦に次男の四人は今いる町に、長男はH義妹はI町に部屋を借りた。すると間もなく我家に娘が幼い子供を連れ出戻ってきた。
無力の親を頼るには相当の訳ありだろうが、突然の事でびっくり仰天だし、住居だって定員オーバーでもある。どうしたものかと思ったが、工夫すれば何とかなりそうだ。3LDKの間取りはKが独立していてLDも広めなので、母子の部屋を兼ねても十分に使える。馬さんが都営住宅で、大勢の家族で住んでいた頃のことを思えば、まだまだゆとりある住まいである。
こうして始まった孫との同居は、認知症の義母には良き遊び相手が出来、ボンビーでありながらも賑やかで楽しいものになった。馬さんにも良いことがあって、義父が友人の工場の片隅を借りて仕事を始めたように、馬さんがまた仕事ができるようにと、自分の工場の片隅を仕事場にと提供してくれる人がいたのだった。誠にありがたいことではあるが私や子供達の気持ちは、倒産を機に馬さんには引退してもらい、年金生活でのんびり暮らしてほしい、というのが本音であった。
それというのも、借りた工場は海の向こうの木更津にあって、ここ羽田からアクアラインを利用しての通勤には、時間とお金がかかり過ぎるからだった。「老後二千万円問題」「老後の夫婦二人での生活費に月三十万円必要」とか言われた時期があったが、倒産した馬さんには二千万円の貯えなどある筈がない。二人の年金合算額では「三十万円問題」はクリア出来たとしても、僅かな貯えしかない身には心細い限りである。なのに通行料金は往復千六百円也で、これ一つをとってみても仕事を続けるメリットがない。
しかし仕事人間の馬さんは「自分から仕事を取ったら認知症になる」と、皆の不安を煽り強引に仕事を続けていった。馬さんには町内の仲間達とで作った落語研究会という、最高に楽しい趣味だってあるのだからと勧めても、六十代後半のまだまだ働ける人には言っても無駄なことだった。
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