京都の作家は、締め切りを守らない

「あなたが今、生きているのが原稿です」

編集者・桐谷透は、京都在住の人気ホラー作家・柊史朗に原稿を催促するため京都を訪れる。三ヶ月も締め切りを過ぎているのに、柊は「もう書き終わっている」と告げる。だが、原稿は渡せないという。

その理由は――桐谷の人生そのものが、柊の新作『書かれた者たち』の原稿だからだ。

翌日から、桐谷の日常が恐怖に侵食されていく。上司が階段から落ちる。恋人が突然別れを告げる。そして、夜中に目を覚ますと、机の上に原稿用紙が山積みになっている。自分の字で、知らない物語が書かれている――。

柊は告げる。「京都という街は、物語を求めています。血を吸った土地が、新しい『語り部』を選ぶのです」