優しさと支配が同じ言葉で語られる

逃げ場のない愛と矛盾の物語。
物語が進むにつれて静かに水位が上がっていくような息苦しさが続き、
その感覚から目を逸らすことはできませんでした。

瑠璃の語りはとても静かです。
感情を声高に叫ぶことはないのに、
外の流れる高速の光を部屋から眺める場面、
トマトを手に取るだけで涙が出そうになる場面、
ひとつひとつに胸の奥が締めつけられます。

氷月も単純な加害者ではありません。
優しさと支配が、氷月本人ですら区別のつかないまま差し出されます。
その曖昧さに、理解より先に立ち止まらされてしまう……
それでも一人の人間の人生を変えてしまった存在であることに変わりはなく、
安易な断罪もできない描かれ方でした。

気軽に読める内容ではないかもしれません。
でも、愛と依存の境界に触れたことのある人には、深く刺さると思います。