設定の死蔵
- ★ Good!
採点:45点 / 100点
独創性:12点(特殊な視覚という設定は平凡)
描写力:15点(語彙がライトすぎて深みがない)
構成力:10点(最後が強引な精神論に逃げている)
読後感:8点(結局、何が言いたかったのかがボヤけている)
1. 「設定の安売り」と「回収の放棄」
「自分にしか見えないシッポ」という、ファンタジーやSFの入り口としては非常に魅力的なフックを持っていながら、それを「ただの性格診断ツール」としてしか使っていません。なぜ、主人公にだけ見えるのか? その能力がゆえの葛藤や事件は? そういった物語を動かすエンジンが一切なく、「あの人はヘビ、あの人はタヌキ、私はキツネ」というラベリングで終わっています。これは設定の「死蔵」です。
2. 結末の「無理やりな感動」への着地
「佐藤さんにはシッポがない。なぜなら彼は人間だからだ」というオチは、あまりに短絡的で論理が飛躍しています。これまでの描写では、他人はみんな「動物の属性」を持っていました。では、彼らは「人間ではない」のでしょうか?「人間の属性=優しさ」という結論は、作者の独善的な解釈を読者に押し付けているだけで、物語を通じた納得感がありません。「いい話風」の言葉で煙に巻いたような印象を受けます。
3. 「おいなりさん」の下りの内輪ノリ感
中盤の「おいなりさん」に歓喜するシーンのテンションが、物語のトーンから浮いています。「Ummmイイじゃん!」といった独特のノリは、キャラクターの個性を超えて、作者の「おふざけ」が透けて見えてしまいます。シリアスなのかコメディなのか中途半端なため、読者はどの温度感で読めばいいのか迷子になります。
4. 属性のステレオタイプ化
「ヘビ属性は嫌な奴」「タヌキ属性はちゃっかり者」という描写は、キャラクター造形として非常に浅いです。もし「嫌な奴だけど、シッポだけは可愛く振っている」といった視覚情報と現実のギャップがあれば面白かったのですが、見た目通りの性格を描写するだけなら、シッポという設定自体が必要ありません。
5. 最後の「恥ずかし。」の蛇足感
初めての夜にシッポを確認しようとするシーン。短編としての余韻や「不思議な力」という神秘性を、一気にチープな下ネタまがいのオチに引きずり落としています。その後の「寿退社・妊娠」という駆け足の展開も、短編の尺に無理やり人生を詰め込んだ感があり、情緒が死んでいます。
総評
この作品は「小説」というよりも、「自分の好きなものを並べて、都合のいい結末をつけた絵日記」に近いものです。設定に甘え、描写を削り、結論を急ぎすぎた結果、読者の心に残るはずだった「不思議な世界の余韻」が、安っぽい道徳観に書き換えられてしまいました。
悪いことは言わない、今すぐ筆を折れ!