冒頭は追っ手から逃れるという緊迫した場面から始まります。
夜道を逃げるのは、獅子王家の姫君――咲《さき》。
嫁いだばかりの咲は、なぜ自分が追われるのかわからないまま、しかし自分の死に場所を探していました。それはなぜか。獅子王家の人間は、その身に流れる血をけっして敵に渡してはならないため。
咲の身に流れる血は、幻獣金獅子を従える力があり、それ故に敵に利用されてはならないのです。
掟に従い、自死を選ぼうとしたとき、咲の前に現れたのが浦部春臣《うらべはるおみ》でした。
彼は咲の弟の従者であり、咲が追われる理由を話してくれます。獅子王家に残ったのは、咲だけかもしれないと。
こうして、二人の逃亡生活が始まります。
姫と従者という身分を隠しながらの生活。それは二人を主従という関係からより強い絆が芽生えます。
一方で、逃亡した咲の行方を追っ手はずっと探していました。
何度も危機を乗り越えながらも、しかし何よりも守らなければならないのは王家の血。
やがて二人はある選択を選ぶのですが、二人の覚悟や想いにぐっと胸が熱くなります。
物語を彩るのはもちろん二人だけではありません。咲や春臣に関わるキャラクターにも様々な背景があり、一言では語れないドラマがあります。
ストーリーの中盤まで読了のレビューとなりますが、咲と春臣の行く末をしっかりと最後まで見届けたくなる作品です。
物語は、咲という女性の逃亡から始まります。
最初はなぜ逃げているのかわからず、咲の「敵に血を一滴も渡してはならない。死ぬときは血を渡さないために、この身を海底に沈める」という覚悟の強さに驚かされました。
咲は、南を治めている獅子王家に生まれた姫。
そしてこの世界の北には、龍王が治める国があります。
南北二つの国。
争いの種になりますよね。
読み進めていくうちに、この世界の様相だけでなく、人の心というものがわかってきます。
御占で未来のことがわかる。神意が未来の道標になる。
混沌とした世界だからこそ、人は占いや神意に頼りたくなる。確かなものがほしくなる。
けれどそれは、御占や神意を自分に都合よく解釈するという危険性も孕んでいます。
作中で咲が「御占や神意に振り回されてきた。未来は神意ではなく人の営みの先にある」と語ったのが印象的でした。
作品のキャッチコピーにある「神占に抗い、未来を人の手に返すために」は、まさしく咲の主軸となっているように思います。
咲は苛烈な女性です。勢いが凄まじいし、折れないし、たくましい。
それなのに、臣下の春臣の前だとちょっとしおらしい(?)
デレデレになるわけではなく、相変わらず気が強いのですが、ほんのりしおらしい。
その微妙な感じがたまりません!
この作品、女性たちがたくましいです!
その反動で、「おーい!男たち、しっかりしろー!自分大事で動いてんじゃないぞ!」と叱りつけたくなるものがあります。
極限の状態になったとき。自分の弱さを認めながらも前に進んでいく強さを見せるのは、女性なのかも?
多くの人の命が失われていく中。最後に生き残るのは、思いの強さなのでしょう。
シリアスな展開でハラハラドキドキしっぱなしですが、義を貫いた先には一筋の光がある。神意よりも、人の思いが世を動かす。
読後感は、春のようにあたたかいです。
死ぬのに相応しい場所を求め、咲は深夜の竹林を駆けていた。獅子王家に生まれた彼女には幻獣・金獅子を従える血が流れており、追っ手に捕えられ、その血を敵に利用されるなどあってはならないことなのだ。しかし、命を捨てる覚悟を決めたその時、従者である春臣が現れる。「金獅子を従える血筋を絶やしてはならない。姫様は生き延びねばならぬ」。かくして、二人の逃亡生活が始まるのだった。
人の心が、国が、歴史がうねる、どっしり読みごたえのある大河ファンタジーです!
登場人物たちには各々信じるものや生まれ持った立場などがあり、それ故に生じる強い意志や葛藤に、読んでいてとても胸を打たれました。交錯する信念、個人の感情、政治的な思惑。弱さや出自に縛られる切なさ等も含めた生き様にはそれぞれに芯が通っており、納得させられると共に、燃えるような魅力を感じました。懸命に踏ん張り、自らに課せられた生を貫く様をとても美しく思いました。
複雑に絡み合う様々な思いは、どのような未来へと向かうのか。各人物の運命、そして不安定で緊迫感のある歴史の流れから目が離せません。
そういった激情や激動の空気感は読み手である私自身にまで流れ込み、我がことのように体験され、翻弄されました。それはストーリーや世界観だけでなく、作者様の筆力が優れているからこそ得られる感覚であると思います。人の心の機微だけでなく、情景描写においても表現が豊かで素晴らしく、生命が輝き、どうしてこんなに美しい文章が書けるのだろうと惚れ惚れしながら読ませていただきました。
時に残酷な現実や己の弱さを突きつけられながらも、誰もが力強く生きる物語。
人間たちや国の行く末だけでなく、龍神やどこか不穏な金獅子についても今後何か明らかになるのか。気になります!
(※四.南朝歴四十四年、夏『6 「もしも」の未来を断ち切って』までを読んでのレビューです)
室町時代くらいの雰囲気、日本ぽいけど日本じゃない、島国を舞台にした和風ファンタジー。
幻獣金獅子。
強靭で人を圧倒する存在。これと過去契約した獅子王家の人間は、その血を金獅子に与える事で、金獅子を従える事ができる。
ヒロイン、咲(さき)は、獅子王家の姫。
獅子王家の者たちは、「その血を一滴たりとも敵に渡してはならぬ。捕らわれる前に血の残らぬ方法で自害せよ」と言い含められて育つ。
この島国は二つの国が覇権を争っていて、謀反により、咲はピンチに陥る。親の教えにしたがい自害しかけた時……、あらわれたのは弟王子の従者である春臣(はるおみ)だった。
春臣は咲を救いながらも、従者として一線をひく。
ハラハラする逃亡劇を繰り広げながら、二人の関係は……?
弟王子の人生にもスポットライトがあたり、謀反劇の行き着く先は、どこになるかもわからない。
戦闘描写も手に汗にぎる、シリアスな時代劇、と言いたくなる和風ファンタジーです。
島国を二分する王のうち、南の獅子王家の娘・咲。
彼女はある晩、突然に降嫁先の屋敷を追われます。謀反が起こったのです。
幻獣・金獅子を従える力のある『血』を敵に渡さぬため、咲は捕らわれる前に死に場所を求めます。そんな彼女を助けたのは、弟王子の従者・春臣でした。
二人きりの逃避行。
その過程で起こる様々なことが、物語に不穏な影を落とし続けます。
咲と春臣の間に生まれていく絆にすら。
冒頭から緊迫した状況で引っ張ってくれ、読者をこの世界へと落とし込んでくれます。
年の差と主従関係に萌える方にもお薦めです。
幻獣の金獅子の存在感も大きく、鉄格子から飛び出した巨大な鼻面とか、巨体のモフモフが想像できて楽しいですよ!
二人の逃避行の先に光はあるのか?
不穏さに震えながら、見守ってみてください!
お薦めです(^^)!