真実の目

岸亜里沙

真実の目

「これは、捜査が難航するな…」

刑事の中里なかざとは頭を抱える。

あまりにも不可思議で、猟奇的な事件に遭遇したからだ。


事件は1ヶ月前。

遺体発見の報せを受け、現場に急行した中里と、後輩の吉島きちじまが目にしたのは、前代未聞の恐ろしい死体だった。

横たわっていた死体を調べると、それは各部位が一度切断された後、また縫い直された死体だったのだ。しかも頭部、右腕、左腕、上半身、下腹部、右足、左足のそれぞれが別人のものだった。つまり7人の人間が殺害された後に切断され、それぞれの体の一部が繋げられた事になる。

その光景を考えた瞬間、中里は吐き気を催した程だ。


「中里さん、聴き込みに行ってきました。今回も目ぼしいものはありませんでした…」

吉島が警察署に戻ってきて、中里に報告する。

現段階では容疑者はおろか、被害者の特定さえも出来ていなかった。

7人分の遺体を切断するだけでも、かなりの重労働だが、それをまた縫合するとは、狂気の沙汰としか思えない。明らかに犯人は複数人であり、部位を縫合している事から、医療関係者だろうとの見立てはあるが、何一つとして分からぬままだ。

「こんな事件は初めてだ。だがとりあえず被害者を特定をしなきゃ、犯人を逮捕出来ても、殺人として立件出来なくなっちまう」

中里は言う。

「でも中里さん、腕と足を切断されただけであれば、生きている人物がいるという可能性もありそうですね」

吉島の言葉に中里も頷く。

「確かにな。だが片腕や片足を意味もなく切断する事に同意するやつなんていないだろうから、被害者は7人と考えていいだろう。一番手がかりがあるのは頭部だが、それもまだ被害者が特定出来ていないからな。この事件は長丁場になるぞ。覚悟しておけ」




事件の捜査は困難を極めたが、この事件の数年後に、事件に関わったとみられる中国人の犯罪グループがマレーシアで逮捕された。

犯罪グループは臓器売買を斡旋しており、闇医者と手を組んで摘出した臓器を売りさばき、莫大な報酬を手にしていたそう。

事件の被害者が外国人であった事は判明したが、それが誰であったのかは、未だに謎のままだ。

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真実の目 岸亜里沙 @kishiarisa

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