第6話 つばき女性講師の内情
未有先輩がつばき女性講師を知っているということは、つばきは反社となんらかの関係があるのだろうか?
節奈はキョトンとして答えた。
「実は、一度だけ知り合いのお兄さんとアカデミック塾に行ったことがあるんです。つばきさんって、なんともいえない色気のある女性ですね」
未有先輩はため息をつき、独り言のように言った。
「そうかあ、やっぱりな。まああの女は色気を売り物にするしかないものな」
節奈は思わず
「そういえば、私の知り合いの村木兄さんは一度行っただけで、つばきさんにゾッコンですよ。まあ私から見ても、胸が大きくて身体をすり寄せてきて、まるで韓国人がするハグみたいだと思いましたよ」
未有先輩は口を開いた。
「実はつばきは、私の父親である有名反社の実の娘なんだ。
事情を聞くと可哀相な女でね。有名反社ゆえにいじめにあったり、偏見の目でみられることもしょっちゅうだったというよ」
またもや、節奈は目をまるくして聞いていた。
ここにも節奈の知らない世界が広がっている。
「つばき曰く、小学校入学時から「ヤクザの子」とはやし立てられ、当時は反社同志の抗争事件が勃発していたが、それがメディアに載った翌日は、誰も口をきいてくれなかったり『つばきとしゃべった奴は村八分にする』なんていう男子もいたというわ。可哀相といえば可哀相だけどね」
親の因果が子にたたり、子は親を選べないというがまさにその通りなんだな。
未有先輩は話を続けた。
「しかし、そんな状況のなかで小学校四年のときの担任ー大谷先生はつばきを庇ったというわ。
たとえばつばきに、ひまわり栽培をさせ「つばきが毎日水をやってくれたひまわりがこんなに大きく咲いたよ」
またウサギの飼育をさせ「つばきが餌をやったおかげで、ウサギが元気に成長したよ」とつばきを励まし、またクラス全員を苗字ではなく、名前で呼ぶようにしたわ。
実は大谷先生というのは、私が昔住んでいた駅前のマンションの隣に住んでた女性だったの。
私も大谷先生には世話になったわ。といっても、私と母とはメディアに出ることはなかったし、苗字も反社である父親とは違ってたので、いじめに合うことはなかったけどね」
未有先輩が、いじめに合わなくてよかったと節奈は思った。
「当時、私の母はラウンジの雇われママをしていて、昼間は家にいたが、夕方五時から働きに行ってたの。
私が困ったとき、面倒をみてくれたわ。
お腹が痛いときは薬をくれたり、おすそわけだといって煮物をくれたりもしたわ。
私は大谷先生には感謝しているわ。つばきもそれは同じね。
大谷先生を通じて、つばきと私とは話をする仲になったのよ」
私は思わず未有先輩に尋ねた。
「私の知り合いの村木兄さんが、つばきさんにゾッコンなの。
このこと、村木兄さんに話していいかな?」
未有先輩は振り切るように言った。
「それはやめた方がいいよ。それを言うとつばきが、有名反社の実の娘ということがバレちゃうじゃないか。
あっ、もうバレてるか。だってつばきは二年前の報道番組に出演してたものな」
節奈は思い出した。
「ああ思いだした。二年前の報道番組でつばきがレポーターに
「学生時代はいろいろあったけど、楽しかったですね。
だってなんにも考えずに過ごすよりも、いろんなことを考えて過ごした方が」って仰ってたですものね」
いつのまにか、夕焼けが空を赤く染めていた。
未有先輩がふと言った。
「つばきのことは、節奈の口から言う必要はないよ。
言っても言わなくても、まあいずれわかるときが、訪れると思うけどね。
初めがあれば終わりがある。出会いがあれば別れがある。
地球もこの世もいずれは、終わるときが訪れる。
私と節奈が出会ったのは、神様のご縁かもしれない。
しかし、節奈に迷惑がかかるようなら、なにもいわずに節奈から去ってくれても私はかまわない。去る者後を追わずというだろう」
節奈は一瞬考えて答えた。
「いや、できたら私は永遠の別れが訪れるまで、未有先輩とご一緒したいです。
そして未有先輩の背負ってきた苦労を、私も背負いたいです。
これで未有先輩がラクになるのなら、私も本望です」
未有先輩の頬には、涙が流れていた。
「こんなこと言われたの、初めてだよ。
女同志の友情もいいものだね。ひょっとして節奈って神様に愛されてるのかな?」
節奈は、夕焼けに包まれながら愛の意味を考えていた。
愛とはお互い分かち合い、許すことだという。
恋とは違う人間同志の愛、これも神様から与えられたものに違いない。
節奈は神様を知りたい、そして自分と人とを愛し続けていきたい、これが節奈に与えられた未来への道だと確信していた。
完
試合終了のあと新しい試合が始まる(後編) すどう零 @kisamatuma
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