辺境伯貴族家の息子、魔道具修理で無双し王女をも救う

まめたろう

1章「転生と魔道具」

1-1章「異世界転生と魔道具修理」

第1話「ブラック企業社員の末路、そして転生」

#第1話「ブラック企業社員の末路、そして転生」


 俺の名は藤原怜音(ふじわら れおん)。職業、回路設計士。

 就職して……たしか五年目だったと思う。


 三流大学を出て、なんとか潜り込んだ会社は見事なまでのブラック企業だった。

 会社ではほとんどの人間が電子回路のことなんて分かっていない。だから、設計の仕事は全部俺に回ってくる。サボリ魔、給料泥棒ばかりの職場で嫌になる。


 回路設計の前任者はノイローゼで退職。

 もう一人いた同僚も、過労でダウン。

 結果、回路設計部=俺ひとり。3人分の仕事が俺に回ってくることに。当たり前の話だがこれで回るはずがない。

 それなのに社長は「気合いが足りん! 締め切りまでもう時間がないぞ!」とか言うだけ。いや、それよりも早く人を補充してよ。

 本当に、嫌になる。無理なものは無理なんだが。


 そして今日で3日目連続の徹夜、もう72時間以上寝てない。

 いくら若いとは言え、さすがにもう限界だった。コンビニで栄養剤と夜食を買って会社に戻ろうとしたら急に頭がガンガンしてきた。最初は静かな痛みが散発だった。またいつもの頭痛だと思ったのだが、でもその頻度が急に増えてきた。

 いや、これ……本気でヤバいやつかも。


 そして更に追い打ちをかけるように頭が割れそうな痛みに襲われた。視界がぼやけた。そして前のめりに倒れてしまった。


「大丈夫か、誰かすぐに救急車を!AEDも急いでくれ!」


 誰かが救急車を呼んでくれていたと思う。その後、気が付いたら何かの機械音と医者の声が聞こえる。

「すぐに手術だ!」


……ああ、これはもう助からないな。

 そう思った瞬間、意識が暗闇に沈んだ。



 次に目を開けたとき明るい光が見えた。俺は生きていた。最初は手術が成功したのかと思った。

 でも、体の感覚が薄い。腕も足も自由に動かない。もしかして意識はあるのに体が動かない不随状態か?


 いや、何かおかしい――目に映るのは、見たこともない天井だ。ここは病院ではないよな、どこなんだ?

 木造の天井?どうにも見覚えのない知らない光景だ。意識だけは少しずつはっきりしてきたけど理解が追い付かない。


 そして、次に視界に入ってきたのは――大きな女性。なんだ巨人か?

 いや、なんだこれ?もしかして俺が小さいのか?次の瞬間、その人に抱き上げられた。


 ……だっこされているような?

 どういう状況だ。

 何か言おうとしたが、口から出たのは「ばぶっ」という情けない音だった。しゃべれねぇ。


 ……え、嘘だろ。何が起きている?



 それから日が経つにつれ、だんだん分かってきた。どうやら俺は転生したらしい。

 前世の記憶を持ったまま、赤ちゃんになったんだ。

 よくある「異世界転生」というやつだ。


 そういえば前世でも、「自分は信長の生まれ変わりだ!」とか言ってる人いたな。あれと同じようなものか。

 いや、ちょっと違うな。少なくともここは日本ではない。時系列だけでなく場所もずれている。

 それにしても……まさか俺が異世界転生を体験することになるとは思わなかったけど。もう疑う余地はない。


 ありがたいことに、言葉は何となく理解できる。日本語じゃないが、意味がなんとなく頭に入ってくる。

 これが転生特典ってやつか。それだけでも助かる。意味が分からなかったら大変だ。コミュニケーションが取れない時期が続くのは厳しい。



 俺が生まれた家はヴァルドリック家という。

 どうやらこの国の端っこを治める「辺境伯」らしい。


 辺境伯という名がちょっとかっこいい。やったぜ、いきなり貴族スタートだ! 王家の次の地位とか最高じゃん!


……と、思っていた時期が俺にもありました。


 現実は――貧乏貴族だったんだな。これが。

 話を聞いているうちに分かった。辺境の田舎ってやつだ。土地はやせ細り、農業と魔物退治で何とか食いつないでいる。

 他の地域では魔道具とか作って儲かっているらしい。同じ貴族なのに差がすごい。父さんが魔物退治を自慢しているから力があるのは分かった。でも頭も使って欲しい。俺はもっとおいしいものが食べたいんだ。

 でもまだ言葉も出ない。どうしようもない。前世と変わらない貧乏生活にちょっとガッカリ。でも仕方がないよな。


 貧乏は残念。それでも家族は良い人たちだった。ずっと、俺の名前「レオン」を連発している。俺がみんなの方を向くだけで大騒ぎ、何をしても喜んでくれる。本当に暖かい家族だ。これが「愛情」というものなのだろう。久しく忘れていた感情を思い出す。


 母さんの名前はセレナ。父さんから「セレナ」って呼ばれているからすぐに分かった。

 金髪で優しい美人のお母さん。父さんが羨ましい。くそっ、前世で童貞のまま死んだ俺とは大きな差だ。悔しい、リア充爆発しろ。


 一方で父さんのはギルベルト。母さんからは「ギル」って呼ばれてる。そしてすごく仲がいい。本当に羨ましい。

 そしてイチャイチャしすぎ。見つめ合ったりキスしたりするのは普通だったりする。

 ……おい、こっちまで照れるだろ。


 そして姉もいる――名前は「イリス」。2歳年上らしい。

 まだ幼いけど、母さん似のかわいい子だ。将来は確実に美人コース。将来の旦那がうらやましい。でも俺の姉は簡単にやらんからな!嫁に欲しいなら俺を倒してからにしてもらおう……嘘です、戦うのはちょっと無理。

 そんな姉は最近は俺を抱っこするのがブームらしい。ふらふらして、ちょっと怖いけど、かわいい姉にだっこしてもらうのはとても嬉しい。


 前世に続いて今世も貧乏なのは残念だが、

 こんなに優しい家族に囲まれているならそれはそれでいいのかもね。俺は十分に幸せだよ。


 少なくとも、もうブラック企業みたいな人生はごめんだ。

 今度こそホワイトな世界でのんびり生きていこう。田舎だからそれができるはずだ。

 ――そう思いながら、俺は母さんの腕の中で小さくあくびをした。ああ好きな時に好きなだけ寝れるってのも凄い幸せだ。

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2025年12月15日 20:04 毎日 20:00

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