(短編)虐待されていた家出少女を嫁にして幸せにする話

金木犀

家出少女を嫁にして幸せにする話


 これは3年ほど前の話……



「気が疲れたよなぁ。飯が食えるのはありがたいが、先輩の自慢話の付き合いは楽じゃないよな……」



 晩秋の金曜日の深夜、都心からかなり離れた住宅街を一人寂しく帰宅する。



 ブラック企業が蔓延っていた昔とは違い、逆にホワイトの弊害が囁かれる最近だ。

 世の中は残業の規制が厳しく、選ばれし者しか社畜になれない。


  そうするとどうなる?


 一人暮らしの貧乏人なのに、残業代があまり稼げないということになるんだ。


 こういった懐事情から、俺は面倒ではあるが仕方なく、自慢話ばかりの先輩の飲みに付き合ったんだ。

 給料日前で困窮した時期には、毎度こうやって誰かに夕飯の奢ってもらって凌いでいるんだよ……


「今日はアイスくらいの贅沢ならいいだろ」


 貧乏生活の達人である俺は、安月給でも困らないよう節制に勤めている。だから家には米や乾麺、根菜や乾燥食品などは切らしたことはない。 


 ただ菓子や嗜好品については、特別なときしか買わないことを徹底しているだけなんだ。


 そして駅から少し離れた深夜スーパーに寄ろうとしたことが、この慎ましい人生を変えることになるとは思いもしなかった……



_______________



『こんな遅くに危ないな。もしかしてあれは制服か?』


 深夜0時を少し回っている頃、スーパーの光が薄っすら届く隣の空きビルのエントランス前に、小さく蹲っている人影を見つけた。


 ボサボサの頭に紺色に見えるブレザー、目を凝らして見るとスカートを巻き付けながら小さく震えている。


 『俺には関係ない。あれは赤の他人だ……』

 

 俺はすぐに目を離し店に入る…… が、すっかりアイスなど買う気は失せていた。


 足りない生活用品を少しだけ買って店を出ると、案の定ビル陰の人影に動きは無かった。

 いや、さっきよりも震えが大きくなっているようにも見える。


「ええい、クソッ……」


 深夜に膝を抱えている姿が数年前の自分に重なり、俺はそのまま帰宅することが出来なくなっていた。


 そして、自販機で缶のコーンスープを一つだけ買い……

 最悪な状況ではないのか、せめて確認だけはしようとビルに向かって歩み出した。




「おいお前、未成年だろ? こんな深夜にふらふらしていると補導されるぞ」


「!! ………………っ」


 声をかけられると思っていなかったのか、一瞬驚いた顔をしたが、次の言葉が出ないようだ。

 俺を見上げた顔を見返してみると、その女の子は幼くともそこそこ整った顔をしていたのだが……


 スーパーから漏れ出る光でも、ハッキリとわかる殴られた跡……

 腫れの程度からは、最悪ではないが決してまともではない状況が窺われた。


 俺はその顔を見て…… 女の子を怯えさせないよう、ゆっくり近づいてみる。

 そしてあらためて覗き込んだ目からは、光が見えず生気を失いかけていた……



「何があったかは聞かない。まずは震えを止めてくれ」


 できるだけ抑揚をつけずにそう言ってから、持っている缶のスープを渡す。


 余程寒かったのだろう、女の子は躊躇しながらもそれを受け取り、両手で包み込んで暖をとりだした。


「あ、あの、お金は……」


 心配そうな小さな声は、高く細く、とても可愛らしいものだった。

 

『こんな状況で真面目か?』


 いや、知らない男から渡されたことで警戒しているのか? 多分だけど両方なのだろう。

 ただこのままでは埒が明かないので、話をしなければと頭を働かせた。


『たしか正面に立つと、相手の警戒心を上げるって聞いたな』


 俺は人ひとり分の空間を開けて、女の子の隣に座る。そしてスーパーで買った、安物のカロリーメイトもどきを手渡す。


「心配するな。とりあえずカロリーメイト食って、コーンスープでも飲め。それから確認することだけ聞いたら消えるよ」


「………………」


 俺は女の子が見えるようにスマホゲームを立ち上げ、そのまま正面を向く。

 通報では無いことを見せておくのと、考える間を与えておかないとだよな……



「…………ズズッ」



 女の子は暫く手元の箱と缶、俺の顔を何度も見比べたあと、小さく鼻を啜ってから……


  ビリッ

  カシャ


 モソモソとカロリーメイトを食べ始め、咳き込みそうになるとスープを啜っていた。


 僅か2分程度の食事時間のあと、震えは目に見えて小さくなり…… いや耳に聞こえてか?

 そして小さな、本当に小さな声で話しかけてきた……


「あの…… 確認ってなんですか?」


 心配そうな声で聞いてくるが、俺が聞きたいのは別に大したことでは無い。


「朝方になると今の時期はもっと寒くなる。このままここにいると病院行きは間違いない。家に戻れたり、泊めてくれる友達はいないのか?」


 連絡するならと言って、スマホを見せてみるが……


「ない…… いないです。あの、スマホはお金がなくて解約しました。友達も……」



  そうか……

  そうだよな……



 行くところがあれば、こんな所に蹲っていないだろう。

 それにその腫れた顔では、家に帰る選択肢などある訳が無いだろう。



  なら、どうする?



 マンガやノベルならよくある設定だけど、現実は甘くない。特に成人男性と未成年は、たとえ歳が近くても犯罪者扱いをされるからだ。


 この状況で俺を正当化するなら、毒親の証明と、証明した後に引き取ってくれる親類縁者がいるかどうか……


 俺は人生というものが崩れる落ちる方法が、無限のようにあるのを知っている。

 そして一度悪い状況に陥ってからだと、並大抵の努力では這い上がれないこともだ。


 だから安易に人助けなんて、頭の足りないバカがすることなんだ……



『とは言ってもか…… クソッ、ついてないよな』



 俺にとっては最悪とも言える状況だ。

 赤の他人ではあるが、放っておけば朝には倒れて…… 場合によっては救急車だけですまないかもしれない。

 そうはならなくても、悪い男なんかに捕まって慰みモノにされるとか…… どう考えても救われるイメージが湧かないよな。



  そして、そうなると俺は?



 昔の自分のような人間を放り投げて、社会的…… いやもっと現実的に死に追いやった内のひとり……

 だからどうしても、自らそれを選択することが出来なかった。


 

「ひとつだけ選んでくれ。俺は今から家に帰る。お前は俺についてきてもいいし、残って他の人生を待つのもいい……」


「あの…… それって、そういうことですよね……」


「それについて答える気はない。選択肢は与えた、あとは好きにしてくれ」


 別に身体を差し出せなんて、絶対に言う気はない。 

 それじゃ名実共に、汚い犯罪者モドキに成り下がってしまうから。


 でも信頼関係の欠片もない初めて会った同士なんだ、無駄に時間をかける必要がないし……

 などと言い訳をするが、本当は来て欲しく無いだけだ。


「すいません。ついて行ってもいいですか?」


 しかし無常にも女の子は逡巡しながら、家に来るという選択肢を選ぶ。


「……制服は目立つから、少し間をあけてついてきてくれ」


 非常に残念ながら、俺のやっと落ち着き始めた人生に、新しい危機が舞い込んだようだった……



_______________



 俺こと三上拓実は、現在22歳にして既に社会人4年生だ。


 高卒で就職したのは勉強ができなかった訳じゃない、ただ難しい人生を歩んできただけなんだ……


 順調だったはずの人生に、初めてケチがついたのは小学5年生…… オヤジの会社が倒産して、夜逃げというのを経験した。


 でもそこからは、借金取りに追われる毎日……

 最終的に両親は離婚し、俺は母親に連れられて知らない都会への転校を経験した……


 都会の裕福な小学生は、貧乏人と一目でわかる装備を見つけると、すぐにイジメという攻撃をしてくる。

 そのとき初めて俺は、孤立無縁ということがどういうことか、身をもって知ることになった。


 そして最大の問題は…… 間違いなく食事だった。

 借金だらけの親父から養育費などあるはずもなく、スキルのない女手一人の稼ぎなど微々たるものだ。


 だから成長期に腹一杯喰う事もできず、かといって貧乏アパートではベランダもなくて、家庭菜園なども作れなかった。

 

 数年後に母親が身体を壊したが、それがきっかけで生活保護を受けることになったとき……

 これで空腹を水だけで誤魔化さなくていいのかと喜んでしまうほど、俺は壊れてかけていたんだろう。


 こんな生活を続けていると、大人も子供も信用できなくなり、相当に可愛げのない子どもになっていたんだが……


 今度はそれが災いとなり、中学では不当に内申を下げられ、本来よりかなり低い公立校へ進むことを強いられた。

 それでも俺は諦めず、なんとか卒業と共に就職す?ことができたんだ。

 

 この経験が良かったと言えるのは、人生は辛いことばかりだと知ったことだろう。


 社会人になってからも理不尽な目に多く遭ったのまが、それに対しての戸惑いなんて殆ど無かったくらいだからな……



_______________

 


「ここだ、夜中だから静かに入ってくれ」


「あの…… 一人暮らしなんですよね?」


 奥の部屋の扉が開きっぱなしになった2Kのアパートは、キッチンの反対側に畳んだままの布団、そして奥の部屋にベッドが見える。


 俺は女の子の疑問に対して、布団の横の棚に飾った遺影を静かに指差した。


「ご、ごめんなさい。そういうつもりじゃ……」


「気にするな。人は死ぬときには死ぬだけだ。本当にあっさりとな……」


 重くなった雰囲気のまま、あらためて明るい部屋で女の子を見ると…… 汚れた制服からのぞく脚にもアザが見える。

 間違いなく家庭での虐待か、学校でのイジメであろう。


「お前は…… えーと」


「結衣です。松原結衣といいます」


「なら結衣、下着になってここに立ってくれ」


 俺はキッチンのついた6畳間の照明の下辺りを指差し、スマホのカメラを起動する。


「…………はい」


 結衣は下唇を強く噛み、震える手で躊躇いがちに制服の上着を脱いで…… スカートを下ろしていく。


 そのままリボンを外し、ブラウスを脱ぎ下着姿となったときには、少し光が戻った瞳はまた生気を失い絶望感を漂わせていた……


  カシャ

  カシャ

  カシャ


 両腕、脇腹、背中、両大腿、両脛……

 結衣の身体のいたるところに、新しいものから治りかけのものまで夥しいアザが認められた。


 俺はそのままスマホカメラをビデオモードにして、結衣の周りを一周してから……


「2022年11月11日、いやもう12日土曜日、午前零時30分。保護してすぐの身体の状態から、酷い暴力を受けていることを確認」


「えっ?」


 結衣が勘違いしているのはわかった。

 ただ、この状態を残すなら絶望感が漂っていた方が都合がいいから、あえて勘違いさせておいたんだ……


「貴方の名前と年齢は? この暴力をはいつから? 誰にされている?」


「私は…… 2006年3月25日生まれの16歳です…… このアザは半年ぐらい前から…… お、お父さんの暴力でです……」


 やはり親からか……


「理由はわかるかな?」


「お父さんが仕事で失敗して…… 退職させられて…… 毎日お酒ばっかり飲んで、暴れるように……」


「母親は? もしかして居ないのか?」


「その…… 一月くらいしたとき、書き置きを残して消えました……」


 おい、母親! 娘も連れて行けよ!

 酷すぎるな、自分だけ逃げたのかよ……

 

「それでも耐えていたのに、今日帰れないと思った理由は?」


「お、襲われそうになったので……」


 そうか……

 それはもう無理だよな……


 結衣の涙が溢れて止まらなくなっているのを見て、俺は静かに録画を終わらせる。

 そしてタンスから、上下のスウェットを出して手渡した。


「ごめんな、状況を残しておきたかったんだ。辛い思いをさせたことはわかっている。これを着て今日はそこの布団で寝てくれ」


「ズズッ…… この布団って……」


 遺影の横の布団なんて普通嫌だよな?

 でもうちには客なんて来なかったから、予備の布団など無いし、貧乏アパートは冷えるんだよな……


「亡くなった母親のものだと思うと捨てられなくて…… でも、この上で亡くなってのでは無いし、布団クリーニングもそのときにしたから……」


「ち、違います。見ず知らずの私が使っていいのかと……」


「それは構わない。風邪をひかないよう使ってくれたら嬉しいよ。風呂も沸かすけど入るかい?」


「ぜひ、お願いします。あ、あの…… 出来れば入るのは後の方が……」


 色々気にしているのだろうし、風呂の後に襲われないかも怖いのだろう。

 俺にその気はないから、風呂を沸かしてとっとと先に入ることにする。


 その前に冷凍おにぎりをレンジで温めて、ウーロン茶と一緒に出しておけば、風呂から出ると綺麗に平らげていた。


「風呂は終わったら湯を抜いておいてくれ。歯ブラシはこれ、下着は新品…… 古いけど新品って変だな。それと、カップのついたアンダーシャツも新品未使用だ」


「いいのですか?」


「これも捨てられずにいただけだ。どうせ使わない物だから有効活用してくれ」


「はい……」


「俺はもう寝るから、そこの扉は開けないで欲しい。あと一つ、夜中にトイレに行きたくなったら、悪いけど横を通るからな?」


「はい。…………クスッ」


 やっと元気が少し出たようで、初めて小さく笑った。

 その顔は思いの外可愛くて…… 俺は明日以降どうすればいいのかと、少し悩み始めていた。



_______________



「おはようございます。あっ…… ごめんなさい、私あなたの名前知りません」


「おはよう。そういえばそうだったな。俺は三上拓実、5月生まれで現在22歳だよ。今後のことは早々に考えるけど、まずは朝メシだよな」


 そう言ってから、俺は顔を洗って歯を磨きだす。

 結衣は一晩寝て落ち着いたのか、昨日より柔らかい表情をしていて、何故か隣にきて一緒に歯を磨き出した。


「昨日米を炊くのを忘れてた。ベーグルでいいか? と言うよりベーグルで我慢しろ」


「もちろんです。三上さん、私ベーグル嬉しいです!」


 元気になるのは良いことだ。台所で歯磨きをして横を見ると、ボサボサ頭は昨日の風呂で整えられ、そして声に張りがあることに少し安心する。 


 俺は冷凍していたベーグルに水をかけて温め、ハムとチーズを挟んで出来上がった朝食に、インスタントコーヒーを並べた。


 結衣は嬉しそうに頬張ったあと、それを眺めている俺に気付いて……

 子どもっぽい行動が恥ずかしかったのだろう、頬を紅く染めながらモソモソと食べ始めた。




「これからどうするかを考えよう。家には帰りたく無いんだよな?」


「お願いします! もう覚悟は決めました。私を好きにして構いませんので、ここに置いてください」


 いや、それだと俺がマズいんだよ。

 変な覚悟は要らないんだけれど……

 でもなぁ、こんな状態で家に帰す訳にもいかないし……


「親戚もダメなのか? あと、ここにいるとした場合、学校はどうするのか……」


「親戚付き合いは全くありません。祖父母も亡くなっているので…… あと、学校でも…… 身嗜みが悪くなってからイジメにあっていて……」


「八方塞がりか。そして学校は行きたくない……でいいのか?」


「…………はい」


 いろいろ状況を確認しても、結衣の周りには助けてくれるような人は皆無だった。


 そんな状況にも関わらず頑張って生きてきたこと、今はなんとか前を向こうとしていること…… そんな健気さが痛々しかった。


「で、その歳だと、住み込みで働くのも無理か……」


「あとは…… その…… そういうお店くらいかなって……」


「それでさっきの覚悟か?」


「知らないオジさんに…… なんて嫌ですが、三上さんなら……」


 昨晩手を出さなかったおかげで、随分と信用されたようだ。

 かといって、手を出せば犯罪者なんだよな……



  さてと、これを打開する方法か?



 でも、そんなもの無いだろ。

 この状況で一つ分かっているのは、時間をかけるのは良くないということだけだな……



「あ! ある…… 」


「三上さん、どうしました?」


「二人とも安全な方法が…… 一つだけあったけど……」


「そ、それって、どうすればいいのですか!?」


 あるにはあったが、その代償は一般的には大き過ぎる。

 もっとも俺だけを考えると、子供の頃から人生に何の期待もしていなかったから構わない。


 だけど、年若いこの子だとどうなんだろう?


 いや、でもこれは…… あくまで選択肢を与えるだけだ……

 他に何も解決策が浮かばない俺は、できるだけ静かに話しを始めた。



「結衣は16歳だったな? 戸籍が汚れてもいいなら…… 結婚するか?」


「えっ、えーーー!!!」



_______________



「落ち着いたか?」


「は、はい……」


「それでどうする? 他の方法も今は思いつかないだけで、良いのがあるのかもしれない」


「三上さんがいいのなら、お願いします。あの…… 出来れば…… 可愛がってもらえたら…… う、嬉しいです」


 全身を紅く染めて、もじもじしながら結衣が答える。

 なんかむず痒い感じがするが、そういうことじゃ無いんだよ……


「結婚するからヤらせろとかじゃないからね。このまま結衣をこの家に置くと、父親が淫行条例を切り札にしてくる可能性がある。そうじゃなくても未成年者を泊めていると、俺は捕まるかもしれない」


「は、はい」


「だから早めに虐待で訴えると焦らせて、冷静に考える時間を与えずに婚姻届の証人欄と、母親が行方不明との理由書にサインさせるんだ。それで役所に届出れば、あとはここに住むのに問題はない」


 今なら父親は相当焦っているだろうし、決行するなら今日のうちの方が分が良いはずだ。

 結衣の話では元は真面目なサラリーマンで、酔わなければ気の弱い男らしいし……


 そんな男が自分の娘を襲おうとしたんだ、今は恐怖で怯えている可能性もある。

 酔いが覚めていれば、娘が警察に駆け込むとどうなるか、容易に想像できるだろう。



「はい! あ、でも三上…… た、拓実さんはそれで良いのですか? 戸籍が……」


「一応デメリットも言っておく。まず一番はそのこと、この先好きな人ができたとしてもバツイチは大きい。それ以外だと、未成年の特権は失う」


 契約で騙されたときの民法責任の免除や、犯罪を起こしたときの少年法適用が、結婚すると成人となるので除外されたはずだな。


「それは全然問題ありません。戸籍より身体が汚れないほうが何百倍も嬉しいです。でも私のせいで拓実さんの戸籍が……」


「そう思うのなら、そのままにしていればいいさ」


「そ、それって……」


「いずれにしても離婚を急ぐ必要はない。急ぐのは今日からの行動だけだ」



 僅かの時間しか一緒にいないが、良い子であるのは間違い無さそうだし…… 何よりも可愛らしい。


 見た目だけではなく話していてわかるのは、こんなに不幸な目に遭っているのに、悲劇のヒロインになっていないところ。


 こういうところは割と大事なことで、だからこそ好感が持てるんだ。


 それにこれで結衣を救えるとしたら、俺は負けばかりの人生では無かったと、心から言える気がしたんだ……

 





  そして……

  結果としては上手く行った。



 結衣の父親には警察に相談中で、すぐに告訴できると脅したら…… 見事に効果覿面だった。

 顔面を蒼白にした父親は、婚姻届の証人欄も、同意書へのサインも二つ返事で署名する。


 今どき婚姻届なんてコンビニで手に入るし、理由書の書式は特に決まっていないから準備万端だ……

 そして一週間が経ち次の土曜日の今日、結衣の大事な物だけを運んで実家関係は終了した。


 学校にはとりあえず休学届を出して、復学だけは可能な状況を確保する。

 家庭の崩壊という事情を訴えたので、こちらも問題ないだろう。


 あとは住むところだけど、元々母親と暮らしていたアパートだ。二人暮らしは契約的に問題ない。

 二人で大家に挨拶に行くと、驚いた後に優しく祝福してくれて……


 こうして何の問題もなく、俺たちの普通じゃない結婚生活がスタートした。





「あの拓実さん。もう夫婦なんですから、手を出してもいいんですよ?」


 クスクスと笑いながら際どいことを言う彼女は、僅か一週間前の生気のない表情の頃とは別人のようだ。


 心なしかふっくらとした頬は、若い回復力により腫れやアザがすでに消えている。

 この調子で一月もすれば、身体中のアザも消えているだろう。


 何より俺を見つめる瞳には、光が輝いていて……

 贔屓目に見なくたって、結衣の姿は十分美少女といえるものだった。



「あのな結衣。形式的にこれが上手く収まる方法なだけだったから、そんなこと考えなくていいからな。それに嫌になったらいつでも解消できるから……」


「それって…… 拓実さんは解消したいのですか?」


「いや…… 俺の方からはしないから安心してくれ」


「なら、一生このままです! だから安心して手を出してくださいね!」

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