静かな導入から少しずつ音量が上がるように違和感を積み重ね、気づけばページ送りが止まらなくなる構成が見事でした。地の文の比喩は景色と心情の温度を滑らかに繋ぎ、台詞の“間”が登場人物同士の距離感を自然に可視化します。日常の柔らかな描写に差し込まれる微かな影が心地よい緊張を生み、終盤の選択にしっかり説得力を与えていました。詳述は避けますが、冒頭の小さな仕草が後半で意味を反転させる仕掛けは特に印象的。読後は最初の一文へ戻りたくなる余韻が長く残ります。今後はサブキャラクターの背景や動機にもう一歩踏み込む章があると、物語の厚みがさらに増しそう。続編、あるいは同世界観の短編集もぜひ読みたいです。