第33話 BANハンマー

 ハンマーが獲物を追う最中、野次馬達が口々に感嘆の声を漏らす。


「……は、初めて見たぜ」

「いつも見ても圧巻だな」


 プレイヤーさん達は、どうやらあのハンマーの存在を知っているようであった。

 まるで、珍しい物が見れたかのように感心しているが、僕は……ただ、恐ろしかった。


 ハンマーに宿った力は異様だった。

 人に許される力の範囲を明らかに超越している。

 恐怖で歯がカタカタと微かな音を立てる僕に、プレイヤーさんの声が聞こえた。


「運営もたまには仕事するんだな」


 運営……そうか、あれは神様の力なのか。

 あまねくNPCを支配し、指先を動かすことすら制限コントロールできる、超常の存在。その意思ひとつで、NPCはおろか、プレイヤーさんでさえも抹消できるとは……。

 

(神様って一体何者なの……)


 僕にとってそれは最大の謎だ。

 善か悪か、それともどちらでもないのか。

 

 天から舞い降りたハンマーは、逃げ惑うシノノメさん達を捉えた。

 神聖な光を纏う金色の槌が二人を押しつぶし、耳をつんざく破壊音が発生した。余波で吹き荒れた突風が砂塵を巻き起こす。


 風に目を細めると、既にハンマーは消失していた。

 その場に残っていたのは、地面にひれ伏した体が徐々に消えていくシノノメさんと、エンビーさんだけだった。


「くそっ、なんでBANになるんだ!」

「まさか、全部バレたのか……いや、ありえねえ。あれはニュー・エリシオンと関係ない」


 動揺からかぶつくさと呟く彼らに歩み寄る。


「どうやらここでお別れのようですね」


 カスミンさんとミーリャが二人を冷たく見下ろす。


「本当はもっと色々言ってやりたいけど、関わるだけ不幸が移りそうだからやめておく。二度とあたしらに関わるなよ」

「これに懲りたら他人の足をひっぱる生き方をやめるんだな。努力する方が人生100倍楽しくなるぜ」


 一秒ごとに希薄になっていくシノノメさんが叫ぶ。


「BANなんて納得いかねえ! このゲームするのに幾らかかったと思ってんだ!」


 やれやれとカスミンさんが首を振る。


「MPKされていた時から、何度もBAN申請してたから、それが承認されたんでしょ」


 エンビーさんが悔しそうに地面を殴った。


「今までだって同じことをしてもお咎めなしだったのに……」

「運営の対応が遅いのは有名でしょうに。あんたらの被害に遭ったプレイヤーの苦情が募りに募って、ようやく重い腰を動かしたんじゃない? まぁ自業自得ね」


 吹けば消えそうなほど薄まった彼らは、消える直前に僕を憎しみの籠った眼差しで睨んだ。


「……俺はお前みたいな奴が大嫌いだ。努力だのやる気だの青臭い事ばかり抜かしやがって……そういうのは才能がある奴だから言えるんだよ。何の挫折も知らないクソガキが」

「……せいぜい、俺らが消えたのを喜んでろ。いつか絶対に後悔することになる」


 その不吉な言葉を最後に彼らは消え去った。


「べーっ、そんな負け惜しみしりませーんだ!」


 ペロリと舌を出すカスミンさん。

 近くで様子を伺っていたカガミさんが僕の肩をポンと叩いた。


「彼らがこの世界にやってくることはもうないよ」

「絶対にですか?」

「ああ、ほぼ不可能だ。ログインには指紋、網膜、骨格、それに加えて固有脳波コネクトームによるニューロ・パスなどの、あらゆる生体認証を必要とするからね」


 プレイヤーさんが天界リアルからこの世界に降り立つには、様々な条件があるということか。なら、本当にもう彼らと会うことはないのだろう。


「とはいえ、注意は払っておきなさい。ユキノから聞いたが、彼らは『反逆者イズ・デッド』の構成員らしいじゃないか。あれは恐らく君が想像している以上に大きな組織だ。消滅した二人がどれほどの権限を持っているかは知らないが、仕返しがないとは限らない」

「……ご忠告ありがとうございます」

「いやなに、有望株には恩を売っておいて損はないからね。『クシナダ』は常に力ある者を求めている。いつでも気が変わったら来てくれ」


 そういってカガミさんはクランメンバーの方へと帰っていった。


「モブ、私もそろそろ行くよ。キョウノグラでの金策イベントが終わればここに滞在する理由もなくなる。会う機会も減るだろう」


 ユキノさんは相変わらずの無表情でそう言った。


「……会えなくなるのは悲しいですけど、すぐに追いついてみせます。僕はユキノさんのライバルですから」

「……うん」


 彼女は綺麗な黒髪を靡かせて背を向けた。

 振り返る瞬間に見えた横顔は、少し笑っていた。






 

 今日は色んなことがあった。

 一件落着と言いたいところだけれど、問題はまだ山積みだ。


 ユキノさんはかっこよく立ち去って行ったけれど……僕は彼女に借金があるんだよなぁ。つまり、ここから必死こいて返済しなければならない。


「謹慎とけたからあたしもまた一緒に遊べるんだけど、冒険どうしよっか。カオスが戻ってくるまでレベル上げに専念する?」


 困ったように顔を顰めるカスミンさんがうんうんと唸る。


 カオスが戻ってくるかが、一番の問題だ。

 そのためにキングを討伐したのだが……きっと見てくれていたと信じるしかない。ただ戻ってくるにしても、それまでどうしたらいいのだろう。


「お兄ちゃんのことなら気にしないでいいぞ。レベルだって一番高かったし、後からきてもすぐ追いつけるって」

「それもそっか、じゃあ明日から新エリア目指しちゃうか!」


 僕もそれに頷いた。

 さて、次のエリアはどんな場所なのか。

 猿エリアは終わりだから、違う場所へと向かうことになるはずだ。

 

 ひとつの冒険が終われば次の冒険が待っている。

 NPCである僕は全てのプレイヤーさんに記憶される最高の冒険者になるまで走り続けのだ。




―――――――――――――――――


※あとがき


ここまで11万文字ほどの物語を読んで下さりありがとうございます!

これにて、一旦こちらの物語を区切らせていただきます。


個人的には好きな作品だったのですが、ストーリーや魅せ方などの力不足を痛感しました。また出直そうと思います。


本日よりまた別作品の投稿を始めます。

次はカクヨムコンように描いた女主人公の異世界物です。


作品の順番的に次はラブコメ作品と公言してましたが入れ替わってしまいました。ラブコメは一月か二月頃には完成する予定です!



◇新作タイトルはこちら

「スキル『ポイ活』で地球の商品を購入できる私、理不尽な転移先に逆切れして国宝を次々にポイント化したら所持金がカンストして最強になった」


ちょっとお馬鹿な主人公が、現代兵器を操り無自覚最強ムーブでわちゃわちゃする話です。


是非一話だけでも読んで下さると嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/works/822139840274506163

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唯一無二のモブライフ プレイヤーだと勘違いされているNPCは『圧倒的演算能力』と最強ユニークジョブで、ゲーム世界の記録を次々に塗り替えて成り上がる~僕がこの世界で生きた証を残すためにするべきこと~ 街風夜風 @aseror-t

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