下【いつでも死ねる安心感】

 不思議な気分だ。


 藍璃とは初対面のはずなのに、何故か一緒にいる。車に乗せて、さらには、自分が安らかに眠れるように布団を敷いてベッド仕様にした後部座席に、一緒になって布団を被っている。


 朱花は元々、知人より初対面の人が相手の方が上手く話せるタイプではあったが、まさかここまで親しく話せるとは思わなかった。

 同じ自殺志願者だからだろうか。

 いつでも死ねるというその安心感が上乗せされた、吊り橋効果的な何かによる無敵感なのか。


 朱花には何も分からなかったが、ただ、確実なことは、藍璃となら一緒に過ごしても良いかもしれないと思っていることだった。


 マフラーを塞ぐ予定だった新聞紙とガムテープはその辺に放っておいて、朱花は藍璃と密着して、サンルーフ越しの夜空の下、互いの顔を見つめ合っていた。


「……こんなことを言うのもなのだけど」

「……なに?」

「……ここに来て私、もうちょっと後でもいいかって思ってるの」

「自殺?」

「そう」

「まあね。死ぬ準備は出来てるし。死のうと思えばいつでも死ねるし。正直、藍璃と一緒なら、もう少しだけ後回しでもいいかなって思ってる」

「……私も、朱花と一緒にいられるのなら、もう少しだけ遅くてもいい気がしてるの」

「……一緒だね」

「ええ」


 互いに、相手の頬に指を触れた。


「……死にたくなったら言ってね。その時は一緒に死のう」

「ええ。死ぬまでの間は……一緒にいてくれるのよね」

「もちろん」


 抱き寄せる片腕に力を込め、頬に触れる指は体温を奪って熱を持った。


 勢いに身を任せ、朱花と藍璃は目を閉じて距離を詰めた。



 ────。




────END

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死に損ないの私たち。 連星霊 @Lunaaaaa

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