中【ふたり】

 暗闇の森の中にある光は2台の車のヘッドライトの明かりのみ。


 そこに、20代前半の若い女性が2人。


「……貴女、私のこと付けてきたわよね。私の邪魔をする気?」

「知らないし。そっちこそ私の邪魔しないでよ」


 朱花は彼女に反発した。すると彼女は顔を歪めながら朱花に近づいてきた。


「もう楽にさせて……。私もう十分苦しんだの。貴女みたいなスカスカな人間に私の何が分かるのよッ!!」


「っ!!」


 ──いや、まさか、一緒なのか。


 彼女がここにいる理由がまさか自分と同じかもしれないと思った朱花は訂正に入る。


「ッ……待って、待ってよ。私はここに死にに来たの。貴女が何をしようが私は止めない。ただ、私の自殺を邪魔をされたくないだけだから」


「………ぇ?」


 彼女は固まった。


「……貴女も?」

 青色の瞳で、朱花を見ていた。


「貴女も……ここで死ぬつもりだったの……?」

「うん。そう」


 呆気にとられたような顔をした彼女に、朱花はため息をつきながら答えた。


「……ごめんなさい、私……酷い事……」

「いいって。死んだらどうせ記憶も罪悪感も全部消えるんだし。何言っても良いよ」


 朱花は車のフェンダーに寄りかかり、彼女を見た。


 美人だと思った。

 細身で小顔。身長は朱花より少し高いくらい。さらさらの長い髪はいい匂いがしそうで、体つきはかなり痩せていても凹凸はしっかりあって、抱きしめたら温かいだろうな、なんて思ってしまう。


「……偶然通り越して運命かもね。同じ日に、同じ場所で自殺なんて」

「……そうね。同じ日に2人も自殺者が出るようなこの世界が終わってるとも言えるわ」

「言えてる。……ねぇ、寒いから車の中入らない?」

「え?」

「せっかくだからさ。乗ってよ」

「あ……ええ」


 朱花は彼女を自分の車の助手席に乗せた。


「……ふぅぅ…寒い外から解放された…っと」

「はぁ……そうね。温かいわ」

「うん。…あ、せっかくだから自己紹介。私秋季しゅうき朱花しゅか。昔はシュシュって呼ばれたりしたけど、朱花でいいよ」

「…私は…春雨はるさめ藍璃あいり

「春雨さ……いや、藍璃あいりね」


 朱花はシートを倒して横になった。


「……あの」

「もういいかなって思ったら、一緒に死のうよ」

「……そう……ね」


 実の所、朱花の意識は完全に藍璃に向けられてしまい、死んでやるという意気込みが失われてしまっていた。ただ、藍璃の死の邪魔はしたくないので、自分の死のタイミングを藍璃に丸投げしてしまった。


「……あの」

「なぁに?」

「……生きるだけで辛いの」

「だよね」

「……誰とも関わりたくないの。人と関わると全部ダメになるから。…迷惑しかかけないし。不快感しかばらまくものが無いし。誰かのために何かができる才能も無いし。……最初からナメられて、使えないって思われて、嫌われて、何をするにしても。自分も自分を嫌いで、誰も私を必要としてないの」

「うん」

「生きてて何になるの?いいことって何?辛い思いしいきてまで待ち望みたい程のいいことって具体的になによッ!!何なのよ!ねぇ!!」


 藍璃は話しているうちに取り乱し、朱花に掴みかかった。


「いつ来るの!?待ってても誰も助けに来ないじゃない!!なら私が自分で掴み取るしかないのに私には何のビジョンも無い!!力も気力も思いの強さも無いのよ!!?気安く分かるとかほざくスカスカな連中が嫌いで、何の悩みも無く笑顔で過ごしてる連中も、笑顔で取り繕って気合いで乗り切ろうとしてるロボットみたいののもみんなッ!!みんな嫌いなの!!分かって……!!私は何も悪くないの!!人を傷つけて平気で笑ってられるようなクズとは違うの……!!私はもう何も見たくないし感じたくないの……」


「……だから消えるしかないの……悲しいよね」


「仕方ないじゃない……。私には極論しか残されてない」


「……だね……」


 朱花は掴みかかってきて触れた藍璃をそっと抱きしめてみた。


「いいよ、泣いても。笑ってもいいし。他人のために生きる必要は無い。……私は味方でいられると思う。助けることは出来ないけど。……一緒にはいられる」


「朱花……」


「……いつでも死ねるからさ。良かったら、もう少しゆっくりしてかない?」





……To be continued

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