第45話 別世界

 アンリは2本のダガーを構え、レイに攻勢を仕掛ける。

 レイも応戦すべく黒剣を構えるが、いつもの調子で戦うことが出来ない。


(なんだ、体がいつもより重い、動かしづらい。……もしかして、俺の体は本能的にアンリがって記憶しているのか?くそっ、何で記憶が戻らないんだ!こんな戦いに意味なんて─。)

「一段、霞の空カスミノソラ。」


 レイの眼前から姿を消し、背後に殺気を感じとり本能で黒剣を構える。

 そこにダガーが振り下ろされ、数m後ずさる。


「さすがです、兄さん。記憶にない相手だったとしても、体が記憶しているんですね、反射でうちの攻撃を弾くとは。」

「……そうみたいだ、本当は嘘でもアンリの事を思い出したって言って命乞いをするのが最善なのかもしれない、けど、アンリが本当の妹なんだったら、俺は嘘をつきたくない。」

「変わりませんね、どこまでも真っすぐな兄さんは。処刑する前に、お話しておきますよ、。」


 アンリとレイは地面を削り、レイは髪を数本斬られたりしながらも、激しい戦闘の中でアンリは話し始めた。




 レイもアンリも、


 元の世界で見たことのない光に包まれ、レイとアンリを含む元の世界の人間がイリオスに連れてこられた。


 目を覚ました場所は人それぞれ。

 アンリは、パトラの近くで倒れている所を1人の男戦士に助けられ命拾いした。


 だが、自分以外周りにいなく、連れてこられたであろう元の世界の人は誰も出会えず、孤独の中で生きる為にギルドに加入し、生活をしていた。


 元の世界はどこにあり、無事なのか分からない。


 また、実の兄の姿も見当たらず希望などない世界であった。



「そんな時に、兄さんの情報が入ったんです。謎の流派を使い、最近成果を上げている戦士がいると聞いて、うちは希望が持てました。どうしても会うために、生きようって。」


 ガギーンッと高い金属音が鳴り響き、ぶつかり合った風圧が辺りの草花を大きく揺らす。

 レイもアンリの攻撃を受け止めるが、攻勢にでようとする意志は見て取れない。


「じゃあ、この戦いはアンリが求めたものじゃない、例えば、俺達の流派が定めた掟ってやつが絡んでるんだな。」

「……そうです、うちらの流派は門外不出、他人に知られることがあればそれは周りの人に危害を生み出しかねない、それだけ使い方を間違えれば危険な力なんです。」

「だから、俺が俺の事を知らない今、俺は他人とみなされるってことか。俺と、アンリは、本当に兄妹なんだよな。」

「……その判断は、死地で下してもらうことになります。二段、横時雨ヨコシグレ。」


 ダガーを逆手に構え、横回転しながらレイに迫る。


「一の型、華火ハナビ!」


 レイも抜刀と共に、斬り上げで相殺する。


 力とスピードなら、レイに分があるだろう。

 だが、テクニックと判断力はアンリに分がある。


 さらに、今のレイは本能でアンリを傷つけたくないというブレーキがかかっており、いつものキレがない。


「兄さん、あなたが生きたいと思うのならうちを殺してください!それしか、もう道はないんですから!」

「本当にそうなのか!俺は、俺を知ってくれているアンリを殺したくない、たとえ掟を破るとしても、家族かもしれない人を殺して生きたくない!俺は、

「それは叶わないんです、1人でも例外を生んでしまえばそこから悪い流れは伝播していく。うち以外の人を手にかけて、苦しむ可能性だってあるんです!」

「未来の事なんて、未来で考えればいい。俺は、今を一緒に生きたいんだ!」

「……頑固なのも、変わりませんね。やはりうちが、兄さんを排除しなくてはならない。読心舞踏陣ドクシンブトウジン、三段、驟雨シュウウラン。」


 ダガーを構え、不規則な動きで迫りくるアンリ。

 前に出て来たと思えば、次の一歩は後ろに下がり、下がったと思えば接近しダガーを振り下ろす。


 弱い雨が途端に強くなるように、

 レイはアンリの戦闘スタイルを直感でつかめずにいた。



(そうか、俺とアンリの流派は、違うように見えて同じなんだ。基礎は同じ、でもその派生が緻密に組まれているから、相手の弱点を突く事が出来る動きになってる。俺が本来の動きを出来れば、アンリにも対処できる。でも、本能が邪魔をする─。)

「考えている暇はありませんよ、兄さん!」

「くっ、だったら時間を作るだけだ!」


 レイは距離を取り、納刀と同時に呼吸を止める。

 その姿を見て、アンリは警戒を最大限にする。


(この感覚、来る─。)

十華一刀流トウカイットウリュウの型、月華乃凪ゲッカノカゼ!」


 抜刀と同時に、黒剣から真っ白い雪のように美しく、ナイフのように鋭い斬撃が放たれアンリを襲う。


(うちにはできない、大振りの斬撃。受け止め切れるの……。)


 アンリはダガーで斬撃を受け止め、10m程後ずさりながらギリギリ捌く。


「はぁ、はぁ、流石兄さんです。」

「アンリ、お願いだ、俺と生きてくれ。わがままなのは分かってる、でも俺は俺たちが死ななくちゃいけない理由が分からない。」

「理由が分からないからといって、掟を破っていい理由にはなりません。兄さん、ここで決着をつけましょう、どちらが生きるべきか。……任務、遂行します。」

「アンリ!」


 2人の戦闘はさらに激化していった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る