第44話 読心舞踏陣

「……ここ、は。」


 レイは目を覚まし、木で作られた天井が目に映る。

 周りでは、スタスタっと早歩きの音が。

 補助員や看護師の足音だ。


「またか、目覚めが医務室なのはこれで何度目だ。」

「あ、お目覚めになられましたか、戦士の方!」


 白衣を着た男性の看護師が様子を見に来る。


「ああ、すまない、迷惑をかけた。」

「いえ、お怪我こそ酷くはなかったのですが、とてもうなされていたのでお連れ様は戦士様の好物を買ってくるとお話でしたよ!」

「連れ……茶髪で紅目の小柄な女か?」

「そうです!あの方がここまで背負ってこられましたから、少し休憩されて出ていかれました。」

「俺は、どれくらい寝ていたんだ?」


 レイは時計を探すと、


「だいたい2時間といったところでしょう。まだ日も暮れていませんので、お連れ様の事は心配なさらずお待ちになった方がいいかと。」

「……分かった、ありがとう。」

「いえいえ!」


 看護師はレイから離れ、仕事に戻る。


 白いベッドの上で1人、レイは夢の事を思い返していた。


(あの白服の女は、顔に靄がかかっていてもこれまでよりはしっかりと話せるようになった。それに、アンリ以上にあの人は俺の事を知っていそうだ、俺は誰で、あの場所で叫んでいたのは俺なのか?俺に、何があったんだ?)


 あれこれ考えていると、

 レイに1人の声が突き刺さる。


「気が付いたんですね、レイさん。」

「っ、アンリ。」


 アンリが茶色い紙袋もぶら下げて、医務室のドアを通った。


「ここまで運んでくれたんだよな、ありがとう。」

「いえ、過去のお礼が今出来たと思えば、まだ全然足りないくらいです。これ、どうぞ。」


 アンリは茶色い紙袋から、スティック状のパンを取り出し渡す。


「甘い良い香りだな、これは?」

「揚げパンです、この町でうちが広めました。この町では、パンというものは焼くものという固定観念がありましたが、試しにうちが作って振舞ったら皆さんハマってくれたんです!」


 揚げパンと呼ばれるものは、ステッィク上のパンを油でカリっと揚げられており、砂糖をまぶしたものであった。


 他にも、クリームを中に入れて揚げたもの、チーズを入れたもの、揚げたパンにスパイシーな香辛料がふられた物など多種多様であった。


 渡された揚げパンを一口かじったレイは、


「ん、美味しい、なんだか、とても懐かしい気持ちになるな。」

「本当ですか!?良かったです、それでさっきの事なのですが。」

「ここじゃ話しにくいよな、俺の体はもう平気だから外で話すか。」

「……はい。」


 レイはベッドから起き上がり、黒剣を持ちアンリと共に外に向かう。


 日は傾きつつあるが、まだ明るく風が心地よかった。

 揚げパンを2人は食べながら、町を出てすぐのところにある広場に向かった。



 ベンチに腰掛け、他に誰もいない空間で食事を終えた2人は重い空気の中話し始めた。


「……レイさん、うちは最後の賭けに出ようと思います。ただ、この賭けが失敗したら─。」

「俺にとっても、アンリにとっても良くない事態になるんだよな。さっきまでの表情で、なんとなく分かった。」

「さすがですね、人の表情や体の動き、音などから心情を読み取るのは誰よりも得意なレイさん。」

「アンリも似ているよな、相手の考えていることを微妙な表情の変化や目の動き、口の動きなどで判断できる。……始めてくれ、その賭けってやつを。」

「……分かりました、覚悟を決めます。」


 アンリは立ち上がり、レイの前に回り話し始める。


「レイさん、うちはこれからあなたに読心舞踏陣ドクシンブトウジンについて話します。しっかり、聞いてください。」


 読心舞踏陣ドクシンブトウジン

 アンリの用いる流派であり、レイの流派、十華一刀流トウカイットウリュウから派生したもの。


 用いるのは、2本のナイフ。

 イリオスではダガーを2本装備し、モンスターなどと戦闘を繰り広げていた。


 大きな特徴は、その動き。


 名前の通り、自分の敵になる者の微妙な変化や呼吸をその目で、何一つ見逃さずしっかりと観察し相手の心を読んで最善の攻撃を仕掛ける。


 また、一連の動きには一貫して軽やかさが重視されており、気配を殺すことはもちろん、足音をモスキートーン並しか立てずに移動もできる。


 1対1の場面では、相手の認識にズレを生み出せるほど繊細かつ細やかな動きで、相手が強ければ強い人ほど読心舞踏陣ドクシンブトウジンの術中にはまる。


 レイが初めてアンリと会った際、目で見えているものと感覚がズレていたのはそのせいだ。


 最後に、


十華一刀流トウカイットウリュウをマスターした、レイさん……いえ、兄さんがいたからうちの読心舞踏陣ドクシンブトウジンは生まれました。その経緯を、軌跡を忘れたとあっては、師匠に合わす顔がありません。」

「……。」

「さあ、最後の問いです。兄さん、あなたの名前を教えてください。これは、最終通告です。」


 アンリの顔は真剣そのもの。

 レイも彼女から、嫌な気配を察していた。




 そして、レイが出した答えは、



「俺は、レイだ。

「……そうですか、残念です、兄さん。ここで、掟を破った者を処断しなくてはいけないなんて。」

「っ!アンリ、待ってくれ─。」


 アンリはダガーを構え、レイに向け振りぬいた。

 レイも瞬間的にしゃがみ、避けると同時に距離を取る。


「最悪の事って、俺を処刑するってことか。」

「はい、うちらの秘密を知ったは生かしてはおけません。ここで、眠ってください。」


 レイとアンリの辛い戦いが始まった。

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