第37話 悪夢のなか
その日の夜、セレジアは見えないロペスから逃げるように自分の家へと戻り、ベッドにうつ伏せに倒れ込む。
夜の外の気温は10℃を下回る、肌寒い中必死に走り家に戻る姿は、1人の震える孤独な女の子そのものであった。
「はぁ、例え私が自由の身だったとしても、ロペス王子には触れられたくない、あの人に触れられたら姉さんだけじゃない、家族みんなの人生が壊れてしまう気がする。少しでも、アテネにいる時間を減らすために、騎士団長セントとして鮮血の銀髪として活動しているのに、これじゃあ意味がないじゃない。」
セレジアは自分の意志で、騎士団のトップ、セントとして活動することを決めていた。それは、アテネの実状を把握するとともに、王族内で不穏な噂がたてられたりしていないか監視する為。
また、鮮血の銀髪としても活動することで、イリオスの平和を守るだけではない、自分の家族を守る為にその身を捧げていた。
しかし、その行動の意味がロペス1人により崩されかけていた。
「つくづく嫌になるわね、レイには私を頼れだの強い言葉を言っておきながら、結局は私自身が頼る先が欲しい、甘えたいだけじゃない。」
夜も深くなり、セレジアは気が付けば涙を流しながら眠りについていた。
翌日、セレジアは騎士団長セントとしての任務を終え、お気に入りのテラスで休憩していた。
そこは前回、パンケーキをレイと共に食べた席だった。
だが、今日はパンケーキは注文せずハーブティーのみを注文しテーブルに顔を伏せていた。
すると、彼女の目にとあるものが浮かびあがる。
自分の幼少期であろう、銀髪の女の子が1人と、体が1回り大きい姉であろう2人が緑が広がる庭のような場所で遊んでいる。
それを眺める、夫婦らしき2人。
平和の象徴ともとれるその空間は、周りから見れば微笑ましい場所であった。
しかし、その平和を一瞬で壊すものが。
その場にいた4人を、地面から生えるように現れた全身黒色の防具を着た騎士が囲む。
その手には、剣や槍が構えられており、4人に向けられる。
何も抵抗できず、夫婦は騎士に両手を縛られ連れ去られていく。
2人の姿を見つめることしかできず、銀髪の少女は立ち尽くしていた。
その後、少女2人も場所を移動させられ、
銀髪の少女の姉は石床に血のように赤い液体で円状模様が彫られた場所に連れていかれ、遠くから見つめていた。
周りを複数人の黒服に身を包んだ大人が囲み、何かを唱えだすと少女の体の周りをドス黒い渦と濃紫色の氷が覆う。
数秒間彼女を覆った後、ドス黒い渦と濃紫色の氷が霧散する。
そこには、意識を失い倒れ込む少女が。
周りの大人の口からは、
「この女もだめだ、適合者じゃない。」
「なら、ついでにもう1人も試してみるか、適合者だったらこれ以上素体を探す必要がなくなる。」
「伝承では、一定年齢を超えた者にしか発現しないんじゃなかったか?」
「伝承は伝承だ、我らが新事実を作り出す実験台になってもらうだけだ。どのみち、こいつらに自由はない。」
銀髪の少女も手を縛られ、黒装備の騎士に連れられ円陣の中に座らせられる。
再度、黒服の大人が詠唱を始めると、ドス黒い渦と濃紫色の氷が生み出され銀髪の少女を覆う。
その瞬間、ドス黒い渦と濃紫色の氷が銀髪少女の中に入り込むように動きを変える。
少女の全身は切り傷で覆われ、大量の血が流れる。
悲鳴を上げているのだろうが、その声は届かない。
儀式を開始して10秒後、銀髪の少女は意識を失う直前に、体の内側から冷たい何かを感じた。
そこで意識を失い、夢は終わりを告げる。
「っ、ぅ……。」
「……ァ、……ジァ。」
「わ、わたし、は……。」
「セレジア!!」
「っ!?」
場所は変わり、名前を呼ばれていることに気が付き体を起こすと心配そうに見つめるレイの姿が。
「レ、レイ?」
「セレジア、大丈夫、じゃないよな。ここに来てみたら、すごいうなされてたぞ、汗も昨日の俺よりひどい、ちゃんと洗ったから返そうと思ったんだけど、使ってくれ。」
レイは、セレジアから借りたハンカチを手渡す。
「あ、ありがとう。レイ、いつからここに?」
「まだ来たばかりだ、店に入ったら店員さんからセレジアが来てるって聞いたから、席に来てみたらすごい辛そうなセレジアがそこにいたんだ。」
「そう、迷惑をかけたわね、ごめんなさい。」
「迷惑なんて言うなよ、利用し利用される立場でも助け合っていいんだろ?セレジアが、俺にしてくれたように。」
レイの言葉に、セレジアは目を見開き2人は見つめ合う。
彼女は感じていた。
希望は、目の前にあると。
自分しかいないと感じていた暗い世界に、光をもたらしてくれる存在がとても近くにいると。
「……レイ、私は─。」
言葉を発しようとした瞬間、急な頭痛がセレジアを襲う。
「うっ、くっ!」
「おい、セレジア!」
頭を抱え、もがき苦しむセレジアをレイは何とか助けようとその体に触れようとする。
だが、
「だめ!私に、触れちゃ……うっ!」
「そんなこと言っている場合か!あんたに触れて何か罪や罰が下るなら、いくらでも受け入れてやるよ!」
「違う、の、私に、触れたら、あなたが─。」
「俺はセレジアを助けたい、それ以外の理由はいらないだろ。ここからは、理解の時間だ。」
呼吸が荒くなり、顔色も悪くなるセレジアをレイは真正面から抱きしめる。
すると、セレジアの冷や汗や苦しみが薄れ、彼女は徐々に冷静になっていた。
(……温かい、これが、人の温かさ。こんなの、何年も忘れていたわ……っ!?違う、レイは─。)
セレジアが正気を取り戻した時、
レイの体に衝撃の事態が。
抱きしめたレイの体の表面が、凍り付けになっていた。
顔以外、上半身から下半身にかけ、レイの体の表面は冷凍庫に入れられていたかのようにカチコチに凍っていた。
「な、なんだ、何が起きた─。」
「レイ!今溶かすから、じっとしていて─。」
「いいや、これくらいなら、俺の熱で!!」
レイは全身の熱を、体の表面に集めるイメージを起こし、呼吸を整え、一気に力を込める。
すると、レイの表面に付いた氷が剥がれ落ち、床で砕ける。
レイは服こそ濡れたものの、怪我はしていないようだ。
「っ!?レイ、怪我はない!?」
「ああ、いい感じに冷えたくらいだ、今日は少し陽が熱かったからちょうどいい。店員さん、すみません、水をこぼしちゃって。」
「あ、大丈夫ですよ!今お洋服を拭くものもお持ちしますね!」
「ああ、ありがとう!」
レイはきょとんとしているセレジアの顔を見つめる。
そして、優しく微笑み、
「ん?どうした?」
「……あなた、不気味じゃないの?私の事。」
「不気味?なんだそれ、嫌味か?記憶も感情も欠落している俺の方が、よっぽど不気味だろ。あ、すいません!今日のおすすめパンケーキ2つお願いします!」
「はーい!」
レイは何もなかったように、椅子に座りセレジアも座るように促す。
「セレジア、話せる部分だけでいい、少し話そうぜ。」
「……ええ。」
2人はそっと向かい合わせに座った。
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