第36話 未来を見据えて

 セレジアは一度王子ロペスから離れ、図書館に向かっていた。

 目的は1つ、十華一刀流トウカイットウリュウについての資料を見つける為だ。



 図書館の大きな扉を開き、セレジアは真っすぐ入っていく。

 図書館は変わらず多くの本で埋めつくされており、国中から集まった人たちが調べものなどをしている。


 そんな中、セレジアは受付に向かい

「セレジア様、ご機嫌麗しゅう。」

「ええ、明日の天気は晴れのち曇りね。」

「そうですね、通り雨にもお気を付けてください。」

「傘は常に持っているわ、長傘をね。」


 意味深な会話をすると、セレジアは鳥の形状をした鍵を渡される。


 そっと受け取り、セレジアは図書館の奥に向かう。


 目の前の、赤い六法全書程の本を抜くと、渡された鍵がぴったりはまる鍵穴が現れる。

 そこへ、受け取った鳥の鍵をはめ込むと、


 ギギギッと壁が横に動き、うす暗い通路が現れる。

 躊躇せず中にセレジアが入ると、本の壁は元通りの位置に戻り外側からは変化ない状態へ。



 扉が閉められ、光が無くなった空間で、


「照らせ、ルビー。」


 右手に持つ鍵に魔術を発動し、松明のような周りを照らす明るいものへと早変わりさせる。

 そのまま先に進むと、先ほどまでの図書館とは似ても似つかない古く埃の舞う広い部屋に辿り着く。


 周りには、多くの風化した書物が置かれており、中央には12人用サイズ程の長テーブルが設置されている。


 その中央には、赤い表紙の記録書のようなものが。


「まだ、レイが何者で十華一刀流トウカイットウリュウが何なのか分からない事ばかり。でも、彼の強さは並大抵のものではない、もしかしたらほどの人かもしれない。どうにかして、記憶も感情も取り戻させてあげないと、。」


 セレジアは風化した書物をしらみつぶしに調べ、レイにつながる情報がないか調べていく。

 レイと出会ってから、時間を見つけては図書館に籠り情報を集めていく。


 書物に記されているのは、数百年前にイリオスを襲ったモンスターの歴史や、国の端々に散らばった流派、イリオスの偉人たちの表には出てこない裏情報について記されたものばかり。



 その中に、レイについて書かれているものは1つもない。


「どうして、レイの情報が何もないなんておかしい、これじゃあまるで彼はみたいじゃない。そんなこと、あり得るの?彼は、私と同じ人間よね?」


 レイの他にはない独特の戦い方、イリオスについて全く知識のない姿、それだけを見れば、異国の人間である可能性は捨てきれない。

 それでも、過去に例がないことをすぐに受け入れるのは常人には難しい所業。


 セレジアもその1人であった。


「アテネの図書館で管理していない力を彼が持っているのだとしたら、この世界にとっての天敵にされるかもしれない。そもそも、レイ以外同じ境遇の人はイリオスにいないの?レイ1人だけが、記憶も感情も失っているの?……それを確かめる術は、ないわよね。」


 セレジアは書物を片付け、隠し部屋を出て外に向かう。


 空を見上げれば、陽が沈んだ黒い空に真っ白に輝く星がたくさん浮かんでいた。



「ふぅ、ごめんなさいレイ、また何も見つけられなかったわ。でも、必ずあなたのこと見つけて見せるから、もう少し時間を頂戴。……ロペスの元に行かないと、面倒なことになりかねないわね。」


 セレジアは一度部屋に戻り、白一色のパジャマに着替えてロペスの部屋に向かう。


 彼の部屋は王都の中心にあり、セレジアの家から3分ほどの距離。


 入り口の前まで、セレジアは足に鉄球をくくりつけられてるかのように重たい足を動かし歩いて、辿り着く。


 ドアを3回ノックすると、


「待っていたよ、愛しきセレジア。」

「……。」


 セレジアは中に入り、目の前に広がるゴージャスな部屋に寒気を覚える。

 セレジアは王族でありながらも、最小限のアクセサリーを身につけ、家にも必要なものしか置かないミニマリストだった。


 それに比べ、ロペスは対照的な人であった。


 ロペスは広いリビングのテーブルに並べられた豪華な食事とワインの元に向かい、席に着く。


 その動線にも、金貨100枚はくだらない絵画や名品と呼ばれる楽器、本人は使えないイリオスの宝剣と呼ばれるものまで飾られている。


 それらを目に入れないように静かに歩き、セレジアもロペスの隣に座り料理を眺める。


(豪華な食事、これほどのものを毎日食べるなんて、あなたは何になりたいの。この食事を準備するのに、どれだけの人が汗水垂らしてるいるのか。)

「どうしたセレジア、早く食べよう、冷めたら食べられたものじゃない。」

「……ええ、そうね。」


 ロペスの言葉に反発せず、セレジアは目の前の料理を食べ進める。



 しかし、その顔に笑顔は宿らない。

 レイと食事をする時、セレジアは頬が緩み周りの人にも幸せそうに見られるほどの顔をする。

 美味しいものを食べ、本人も心から楽しいと感じている。


(食べてるものはどれよりも高級なはず、なのに、美味しいって感じられない。ごめんなさい、美味しく食べてあげられないお食事達、私のような人にあたってしまって。)


 セレジアはレイの前では見せない、苦しい表情で食事を終えた。



 その後シャワーを浴び、ロペスは寝室に入る。

 セレジアは、先にロペスの寝室に入っていた。


 多くの人を魅了する王子なだけあり、体はしっかりと鍛えられていた。

 戦うためではなく、美学のために。


「セレジア、今日はそろそろいいだろ。」

「何のことですか。」

「君の肌に、君という存在に僕は触れたい、その魅力的な体を僕に捧げてくれよ。」

「何度も申し上げておりますが、私はあなたが望むことを何もしてあげられません。」

「姉のためにか?」


 冷たい視線が、セレジアを襲う。


 そして、ロペスはセレジアの前に獣のように迫る。


「僕は紳士だからね、君の許可無しに体に触れるつもりはない。だが、人には我慢の限界というものがある、君が気持ちを変えないというなら僕にも考えがあるよ。」

「……姉さんに何をするつもり。」

「君の姉だけで済むと思うか?まあいい、君らが日の下に出られなくすることも僕には出来る、言葉や行動には気をつけてくれよ。そうなる前に、君を味わいたいものだ。」

「……。」


 ロペスは部屋から出ていき、別の部屋に入る音が響く。


 誰もいなくなった場所で、セレジアは拳を強く握りしめ微かに血が床に滴り落ちた。


 床に血が零れた跡が、真っ暗な空間に色味をつける。


「ごめんなさい、姉さん。出来の悪い妹を……許して欲しいとは言えないわね。……誰か、私を、見つけて。」


 月の光がセレジアを照らし、その背中は苦しさに満ちていた。

 彼女はこの場所にいたくない、地獄にいるような感覚に陥る。


 そんなセレジアの頭の中には、眩しく笑い、楽しい時間を過ごしてくれたレイの姿が。


「……最低ね、私は。嫌いなのは、あなたのことじゃない、何もできない、私自身のことなの、レイ。私は、あなたのようになれない私が心から嫌い。……死にたくなるほど。」


 セレジアはこの気持ちを打ち明けることができず、ロペスの家を出た。

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