第35話 彼の思惑

 レイは目の前に立つ白服の顔に靄がかかった女性と話す。


「怒り、この、感覚が?」

「そうよ、あなたはこれまでの短期間で、多くのことを学んだ。それが、あなたの心身に影響を与えている。」

「これまでの、経験が活きてるのか?」

「ええ、あなたはそれだけの力を持っている。でも忘れないで、いつかあなたの心がもたない時がくる、だから─。」


 女性が目の前から霧状になり姿を消していく。


「おい!待ってくれ!」

「仲間……大切……忘れ……で。」


 レイの目の前から完全に姿を消し、気配がなくなる。




 レイは再び真っ暗な空間に残され、体を自由に動かせない。


(感情がまた戻ってきた、でも、記憶は今回戻らないのか─。)

 レイが違和感を覚えた途端、

 目の前を真っ白な光に包まれ、目を瞑る。




 次目を開くと、


「きゃぁあ!」

「誰か助けて!」

「こっちも化け物だらけだ!」


 レイの目の前には真っ赤な町が現れ、炎で多くの家が燃え逃げ惑う多くの人が二足歩行のモンスターのような何かに襲われていく。

 辺りは悲鳴一色。


 レイがイリオスにてこれまで出会ってきたモンスターとも違う、初めて見る大きな何かが片っ端から多くの人を襲い続ける。


 逃げる人たちは抵抗をする時間もなく、血飛沫を上げながらその場に倒れていく。


 子供からお年寄りも関係ない。

 無慈悲な殺戮。



 人を1人も逃さずにモンスターが傷つけていく。



「や、やめろ!何しやがる!」


 レイは体を動かそうにも、全身に力が入れられない。

 武器を構えようにも、黒剣を装備していない。


 レイの目には、多くの血が地面や壁に付着し、建物も倒壊しているものから燃え上がるもので埋め尽くされる。



 まさしく、絶望であった。


「なんだよ、これ。こんなの、ただの虐殺じゃねえか。どこなんだよ、そこは、逃げてくれ!みんな!」

「うわぁ!!」

「嫌だ、嫌─。」


 さらに多くの人々が、モンスターに切り裂かれる。


「やめろ、やめろ!俺を狙え!化け物!」

「いゃぁぁ!」


 レイの声虚しく、目の前から全ての人間が消える。

 喪失感に囚われた彼の前に、化け物が振り向く。



「……くっ、お前。」


 レイの方向へ、一体の化け物が迫ってくる。

 だが、顔に靄がかかり、体が大きいこと以外何も分からない。


「許さない、お前は、許さない!待ってろ、絶対に俺が、お前を倒す!」


 レイが必死に手を伸ばすと、映像が途端に奥に消えていき、体が急に重くなる。




 すると、


「レイ!レイ!」

「……セレ、ジア?」

「レイ!大丈夫!?」

「……あ、ああ、ここは、アテネの、カフェか?」

「そうよ、あなたひどくうなされていたけど大丈夫?これで汗拭きなさい。」


 セレジアはレイにハンカチを手渡し、受け取ったレイは自分が滝のように汗をかいていることを認識する。


「ありがとう、セレジア。」

「気にしないで、今日はゆっくりと休みなさい。顔色も良くないし、近くに宿を取ってあげるからそこに行くのよ。」

「いや、セレジアにそこまで世話になるわけには─。」

「あなた馬鹿なの?体調が悪いなら、私を素直に頼りなさい。無茶していいことは何もないのよ。あなたは宿で休む、


 セレジアは席を立ち、会計を済ませそのまま2人で店を出る。

 出るまでの間、レイは一歩も動くことが出来なかった。


 夢のような世界で見た悲惨な光景が、脳裏に焼き付いていた。



 レイはなんとか1人で歩き、近くをセレジアが歩く。


「ありがとう、セレジア。」

「気にしないで、宿までは1人で行ける?」

「ああ、少しマシになった。いつも助かるよ。」


 レイは手を差し伸べる。

 その手に、セレジアは握手で応えようとする。


 だが、触れる数cm手前で手を戻し、


「いいのよ、あなたがいなくなったら私のメリットがなくなるから助けるだけ。これは、利害の一致なんだから。」

「優しいな、やっぱりセレジアは。」

「よ、余計なこと言ってないで早く行きなさい!」


 セレジアは照れ隠しであろう、レイに背中を向けそこから離れていく。


 レイもセレジアが準備してくれた宿に向かい歩いていく。

 その道中、


(セレジア、人に触れられない理由でもあるのか?握手の寸前で意識的に拒んだ、気になるな。……あ、マクセルのことも聞けてない、次会ったら聞いてみるか。)


 レイは疑問の答えを導こうとするも、まだ体に痛みが残っており宿までの道を辿った。

 そして、宿のベッドに倒れ込むように横たわった。




 場所は変わり、セレジア。


 レイと別れ、昼の明るいアテネを散歩する。

 都市を歩けば、


「セレジア様!今日もお元気なご様子で!」

「ええ、皆のおかげよ。」

「セレジア様!うちの自慢の野菜納品させて頂きました!是非召し上がってください!」

「ありがとう、いつも助かっているわ。」


 セレジアの人気はアテネで爆発的に高かった。

 目が合う人には笑顔で微笑まれ、声もかけられまるでスターのようだ。


 セレジアという王族の人間が、騎士団長セントと同一人物ということを知る者はここにはいない。



 はずだったが、


「セレジア、こんなところにいたのか。」

「っ、王子。」

「王子だなんて堅苦しい呼び方はやめておくれよ、ロペスと呼んでくれ。」

「……本日はどのような御用ですか?」


 ロペス・ウォーカー、26歳、男性。

 赤髪のショートヘアーで、目は細くつり上がり少しきつい顔のイケメン。

 純白のスーツに身を包み、指輪やネックレス、時計、ピアスなど豪華な宝石を使ったアクセサリーを身に着ける。

 所作も貴族にふさわしいもので、ウィンク1つで心を射止められるものは数知れない

 セレジアの姉と婚姻関係にある。


 セレジアは、フルネーム、セレジア・ウィル・レア。

 国王ベガ・ウィル・レアと、王女アリストア・ウィル・レアの娘。

 そして、セレジアには1人姉がいる。


 ステラ・ウィル・レア。


 ベガとアリストアの間には、ステラとセレジアの2名が生まれ2人共女性であった。

 そこで、跡継ぎを絶やさない為にもレア家と密接な関係にある、ウォーカー家の長男、ロペス・ウォーカーが王子となっていた。


 もちろん、次期国王候補だ。


「いいや、最近君は僕に何も言わずに外に出ている日が多いと思ってな。少し調べさせてもらったんだ。」

「私には、プライベートのお時間も頂けないのですか?ステラ姉さまというものがありながら。」

「僕が婚姻しているのは彼女だが、それよりもっと興味を抱かせられるのは君の方だよ、セレジア。」

「くっ。」


 迷惑そうな表情をするセレジア。


 だが、周りからは、


「セレジア様とロペス様よ!」

「最高のツーショットが見れたわ!もう思い残すことはないわ!」

「皆、いつもありがとう!」


 ロペスは優しく手を振り対応する。

 その動作の中で、セレジアの耳元でボソッと、


「後で僕の部屋に来い、拒否権はない。」

「……っ。」


 ロペスはその場を去り、セレジアも反対に進む。


 そして、心に生まれるロペスへの言葉。


(好き勝手させるものですか。)


 セレジアはロペスに何を思うのか。

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