第27話 彼女の正体

セレジアはレイを連れてアテネの繁華街を歩く。


周りには多くの出店や、屋台、お土産屋さんから市場など多くの施設で賑わっていた。

もうすぐ夕方ということもあり、一般人が多く闊歩する。


2人は一定の距離、5mほど開けながら歩いていく。


道中、野菜を売る女性店主から声をかけられる。


「セレジア様!本日はどちらに?」

「今日は最近オープンした喫茶店に行こうと思うの、評判はどうかしら?」

「ハーブティーが美味しかったですよ!あと、フルーツがたくさん乗ったパンケーキも!」

「そう、ありがとう。参考にさせて頂くわ。」


セレジアはアテネの住人と友好的なのが、レイの目でも見てわかる。


(この姿だけを見ていたら、戦場の、鮮血の銀髪と騎士団長と同一人物って考えるのがあほらしくなるな。でも、どうしても似ている。)


数分歩くと、目的地の喫茶店が目に入る。


中に入ると、


「いらっしゃいませ!あら、セレジア様!」

「初めて使わせて頂くわ、テラス席は空いているかしら?」

「はい!是非お使いください!お1人でよろしいですか?」

「いえ、2人でお願い。」


レイの姿を見て、店員は気を遣い、


「では、奥のテラス席をどうぞ!」

「ありがとう、助かるわ。」


セレジアとレイは席に向かい、メニューを見る。


「好きなもの頼んで頂戴、レイ。」

「好きなもの、友にも言われたけどそれが一番難しいんだよな。セレジアは……セレジアさんは何を頼むんだ?」

「ふふっ、私が王族だからって無理に話し方を変えているのね。私は、フルーツクリームパンケーキと、ジャスミンティーにするわ。」

「じゃあ、俺も同じパンケーキ……。」


レイの目は捕らえた。

セレジアが頼むパンケーキの隣のものを、セレジアは見つめているのを。


「じゃあ、俺はマロンクリームのパンケーキとジャスミンティーで。」

「あら、同じのを頼むんじゃなかったの?」

「だって、あんたはこれも食べてみたいんだろ?」

「……目で察したってこと?本当、あなたの事嫌いだわ。」

「悪かったな、目が良すぎて。」


セレジアが店員を呼び、注文する。

ハーブティーが先に出てきて、2人の会話は始まる。


「あなた、私に会いに来たのよね?」

「なんだ、もうキャラ作りしないでいいのか?俺が会いに行ったのは、騎士団長だぞ?」

「何、取引しようと思って連れてきたのだけど、応じる気がないのならあの時助けずに殺しておけばよかったかしら?」

「その殺意のおかげで、俺は恐怖の感情を思い出せた。すまない、駆け引きは苦手なんだ、取引には応じる。」


さらに2人の話しは掘り下げられていく。


「では、こちらからの取引内容は3つよ。1つ目は、私の事を外部に絶対漏らさない事。2つ目、私の事を詮索しない事。3つ目、週に1度私と会う事。これを守ってくれるなら、あなたに協力するわ。」

「1つでも破れば俺はどうなる?」

「凍り付けにするわよ。」


その言葉が嘘でないのは、嫌でもレイは感じ取れた。


「殺すより物騒な言葉に聞こえるな、分かった。俺の希望は2つだ。1つ目は、この世界について教えて欲しい。もう1つは、十華一刀流トウカイットウリュウについて調べるのに協力してほしい。」

「イリオスについて?構わないけど、あなた自身が図書館で調べるのが効率的なのでは?」

「確かに、書物はとても大切な資料だと思う。でも俺は、あんたの目に映っているこの世界を聞いてみたいんだ。」

「……読めない人ね、分かったわ。2つ目の方は、あなたのあの戦い方かしら?十華一刀流トウカイットウリュウ、聞いたことない流派ね。」

「そうだと思う。これまで何か所か図書館で調べたけど、書かれている物はどこにも無かった。王族っていうあんたの立場なら、俺よりもっと調べる方法があると思って。」


レイの目は真っすぐで、セレジアは逸らすことが出来なかった。


(真っすぐな目、それだけ本気という証。記憶と感情を無くしているっていうのは、嘘じゃないみたいね。さっき、恐怖を思い出したって言ってた、私でやれることは、してあげたいわね。)

「じゃあ、交渉成立ってことでいいかしら、レイ?」

「ああ、よろしく頼む、セレジアさん。」

「こちらこそ。言葉使いも気を付けられてて偉いわ、変なことを言えば私の周りの人からひどく非難されかねないからね。」

「それを狙ってここを選んだんじゃないのか?」

「2割くらいはそうよ。でも、本当の目的は。」


2人が話し終えると、2種類のパンケーキが運ばれてきた。


「お待たせしました!フルーツクリームパンケーキと、マロンクリームのパンケーキです!ごゆっくりどうぞ!」


パンケーキがおかれ、レイは今まで見たことのないお洒落な料理に見惚れる。


「すごいな、これ。」

「それはそうよ、このお店はパンケーキメインで初めてオープンしたのだから!いただきます。」

「そう、なのか。いただきます。」


セレジアの前には、分厚いパンケーキ二枚の上に、生クリームとチョコクリームがふんだんに盛られ、周りにはベリーがたくさん散りばめられている。

途中の味変用だろうか、別皿に酸味の強いシロップもついている。


対してレイのものは、同じくパンケーキ2枚の上に、栗を使ったクリームと多くの栗が乗せられている。

周りには、ビターチョコレートのトッピングもついており、少しさっぱりできそうな印象。


レイはどのように食べていいか考えていると、セレジアは当たり前のようにナイフとフォークで丁寧に切り分け、食べ進めていく。


「美味しい!来て正解ね!」

(なるほどな、ああやって食うのか。)


レイもセレジアの真似をして、食べ進める。


「うん、確かに美味しい。初めての感覚だ。」

「私の目に間違いはなかったわ!……ジーッ。」


セレジアの視線が、レイのパンケーキに突き刺さる。

レイはそっと皿を動かし、


「食べてみたいんだろ、どうぞ。」

「ありがたく頂くわ!」


レイが食べた切り口から、セレジアも切り分け1口食べる。


「うん!こっちも大正解!」

「良かったな、幸せそうだ。」

「ほら、私のも食べてみなさい!」


セレジアはレイに自分のパンケーキを差し出してくる。

シェアする感覚はレイにはなかったが、流れに乗り1口食べる。


「ああ、確かに美味しい。ありがとうな。」

「美味しいものは共有できてこそさらに美味しくなるからね!」


幸せそうに食べ進めるセレジアを、レイはそっと見つめる。


(この人も、1人の人間なんだよな。スイーツ好きなのか、食事好きなのか分からないけど、さっきまでの雰囲気と全く違う。……人って、面白いな。)

「なに?そんなに見つめて。」

「いや、何て言うか。」


レイは優しく微笑みながら、


「セレジアは、その姿が一番いいんじゃないかなって、思っただけだ。」

「え?」

「今がすごい、楽しそうだから。その姿を見てると、何でか俺も楽しくなる。」

「……そう、早く食べなさい!ここを出たら、もう1か所用があるんだから!」

「え?俺夜までには医務室に帰らないと怒られる─。」

「2ヵ所目は食事しないから平気よ、時間は取らせないわ。」


そして、食事を終えた2人はセレジアを先頭に、王城の方角へ歩き始めていた。

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