第5話 もらっていく

 レイはオウロに連れられて、村に唯一ある食事処に入る。


「いらっしゃい、2名様だね?」


 食事処は、古風な木造の建物の中にテーブル席が8つ。

 ランチ時を外してるため、食事というよりティーや果実ジュースを嗜む人が多くいる。

 女性店員は、店の隅の席に2人を案内する。


「あれ、その人は確か迷い人じゃないかい?珍しいね、誰かと来るなんて。」

「ああ、今日は2人で初めてのデートなんだ、ゆっくりして行っていいかい?」

「え、あ、どうぞ!おくつろぎください!」


 オウロは優しく微笑み、女性店員は心を奪われかけたがその場から離れる。


「俺は、何を頼んでいいんだ?」

「好きなもの頼んでくれ、今日は僕の奢りだよ。」

「好きなもの、か、何だろうな。」

「何かないのかい?甘い飲み物とか、苦めのスイーツとか?」

「……分からないな、まあ何となくこれで。」


 レイはカフェオレを注文し、オウロはコーヒーを注文した。


 先ほどの店員が素早い作業で商品を作り、飲み物が運ばれてくる。

 レイはそっとカフェオレを口に含む。

 温かさと甘さが広がり、ホッとする気がしていた。


「……甘いんだな、これ。」

「苦手かい?」

「いや、好き、なんだと思う。」

「やっぱり、記憶喪失なのは本当みたいだね。」

「俺の何か知っているのか?そもそも、あんたは何者なんだ?」

「失礼、改めて自己紹介させてもらうよ。」


 オルデン・アトラス、22歳。

 188㎝、80kg、薄い金色髪のショートヘアーに右頬に傷跡がある。

 顔はシュッとしており、肌は白く、顔のパーツが大きいため可愛さもある。

 微笑む姿は、全ての女性を虜にするほどに眩しい。

 体の大きさに反して、声はやや高く、話し方はとても優しい。

 ゆったり目の群青のボトムスに黒のブーツ、黒いシャツと淡い黄色のロングコートを身につけている。


「僕は、ここから3つ離れた町のに住んでいるんだ。そこで、レイ君の噂を聞いてここまできたって感じだね。」

「俺の、噂?3つも離れた町まで届くなんて、どんな噂なんだ?」

「シンプルだよ、記憶喪失で運ばれて、物静かで不思議な雰囲気から少し恐れられてる傭兵がいるって。」

「そうなのか、さっき俺を助けたのも何か理由があるのか?」

「僕は気になるんだ、なぜ君は


 オウロの質問に、レイは疑問の表情を浮かべる。


「反論?何のために?」

「何のためって、君はさっき報酬を勝手に下げられたんだよ?怒りとか覚えるものじゃないかい?」

「怒り、か。それって、

「……まさか、本当に感情もなくしてるのか!?」

「感情、無くしてる、のかもしれない。そもそも持ってたのかも分からない。」


 レイの発言に対し、オウロが驚きはするもそれ以上追求することも、疑うこともしない。


 その姿に、レイは、


「……何も言わないんだな、あんたは。」

「え?君のことに関してかい?」

「ああ、記憶は失くしてるし、あんたの言う感情もないなんて、嘘ついてるとか思わないのか?」

「いや、確かに信じ難いけど疑う理由もないだろ?だって、君が嘘をついても僕に何も利益がないから。」

「……そうか、変わってるなあんた。」

「レイ君に言われるのは少し心外かな。まあ、褒め言葉として受けとっておくよ。」


 ティータイムを終え、2人は会計に向かう。


「会計一緒でお願いします。」

「本当にいいのか?」

「もちろんだよ、僕から君を誘ったんだからね。」

「そうか、ありがとう。」


 お会計は銀貨1枚、オウロが支払いを終えると最初に案内してきた女性店員が、


「あの、お2人ってどのような関係なんですか?」

「僕らですか?うーん……。」


 オウロは急にレイの手を引き、


「これから親友になる予定の2人、と思ってください!」

「え、まだ俺たち一緒にいるのか?」

「もちろん、次はクエストに行こう!」

「いや、さっき俺は終えたばかりーー。」


 オウロに強引に引っ張られ、レイは傭兵団の施設に連れていかれる。


 その姿を見た女性店員は、


「えー!?すごい、推せる!あの2人、そういう関係なのかな!?どうしよう、もっと知りたいけど迷い人もいるし、あー迷う!」

「仕事に戻りなさい。」


 叱られた女性店員は何か想像が捗ったようだ。




 そんな店員をよそに、レイとオウロは傭兵団の施設に辿り着く。


 ドアを開けると、


「おっ!ちょうどいいところに、迷い人向けのクエストが……げっ!?」


 先ほどの3人の傭兵以外にも、レイは他の傭兵とクエストに参加したことがあった。

 もちろん、誘った傭兵はレイを戦闘に有効活用するために。


 しかし、オウロが隣にいたことで傭兵たちの顔色が変わった。


「すまない、今日は僕が予約してるんだ、悪いけどレイ君は借りていくよ。」

「え、俺は今オウロに借りられてるのか?」

「細かいことは気にしない!えーと、受付嬢さん!イノシシ型モンスターのクエストをお願いします!」

「かしこまりました、お待ちください。」


 受付嬢が処理している間、他の傭兵も寄ってくる。


「な、なあ、俺たちも同行していいか?邪魔にはならないからよ!」

「すまない、僕は2人で行きたいんだ、今回は遠慮してくれ。」


 優しく微笑むオウロの目は、傭兵についてくるなと訴えてるように見えた。

 それ以上、傭兵達は関わってこなかった。



「お待たせしました、こちらクエスト書になります。」

「ありがとうございます、行こうかレイ君。」

「あ、ああ。」

「お気をつけて、ご武運を。」


 レイとオウロが二人で初めてのクエストに向かった。

 はたして、2人のクエストの行方は。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る