第125話 復活の兆し

 元の世界では、リンは目を瞑って横たわり体中から血が滴っていた。


 リンが別世界で受けたダメージは元の世界のリンの体にそのまま刻まれ、初めは目撃した皆が驚いた。


 だが、セラとアンジェはその事を知っていたため、リンに傷が生まれるとともに数少ない包帯や近くの薬草を使い治療していった。


 アテネから飛び降りて逃げてきたため、装備が豊富では無かった。

 セラも銃剣は持っていないため、魔術をそのまま使うことでしか戦えない状態。


 危険が迫っていないか警戒しつつ、治療を続ける2人。


「兄さん、そちら側ではどんなことが起きてるのですか。こんなに怪我をするなんて、うちはあまり見たことがありません。」

「アンジェもリンと同じような経験はないの?あなたたちが受け継いでる力に関係してるのだと思ってたのだけど。」

「うちはないんです、兄さんが何故このようなことになるのかはムクナ師匠も知らない様子でした。本当に、なぜ兄さんだけ……。」

「……まるで私のようね、自分が今の状況にあるのは分かってても、真の意味で理解はできてない。リン、理解できない力を持つのって、不安よね。」


 2人が懸命に治療を続けていると、


「……っ、っ?」


 静かにリンは目を開け、その目には明るい青空が映った。

 先程までの無の空間からの移り変わりに目を細める。


「リン!」

「兄さん!」

「……っ、おはよう、セラ、アンジェ。なんとか帰って来れたみたいだな。」

「ええ、ちゃんとあなたは生きているわ。まったく、心配かけすぎよあなた。」

「勝手に王国に帰って俺らを心配させるセラにだけは言われたくないな。」

「うるさい、とりあえず起きたらならそこから離れたら?」


 リンはアンジェに膝枕されながら目を瞑っていた。

 その状況を理解したリンは、


「ありがとうアンジェ、おかげであっちの世界から帰って来れたよ。」

「お帰りなさい兄さん、怪我こそされてますが帰ってきてくれて嬉しいです。まだお疲れでしょう、もう少しゆっくりしてていいですよ。」

「そう、だな?でもアンジェも疲れるだろ?俺をずっと支えてくれてたんだろ?」

「兄さんの膝枕くらいいくらでもしますよ!」


 アンジェの優しさに、リンもまだ戻ってきたばかりで頭の整理ができていなかったため、甘えようとした。


 だが、それを許さない1人の声が。


「リン、離れなさい?」


 セラの鋭い視線且つ怖さを感じる笑顔がリンに突き刺さる。

 本当に起きないと命の危険があると感じたリンは、膝枕から起きて、セラを見つめる。


 リンが起きてしまったことに、アンジェはどこか寂しそうな表情を浮かべた。


「セラもありがとう、今回はかなりやばかったけど2人と必ず会う、こんなところで死ねないって思ったらなんとか帰って来れた。」

「さすがリンね。理論的じゃないけど、あなたのことは信頼できる。そういえば、次はどんな感情が思い出せたの?」

「ああ、恨みだ。俺は、セラに付き纏ってるロペスとかその環境を変えようとしない周りの人間に恨みを覚えたんだと思う。だから、さっきは倒れ込んだ。」

「恨み、ね。確かに、生きていく上で何かを、誰かを恨むことはあることだわ。それを律して戻ってきたなんて、リンらしいわ。」


 リンの怪我は2人によりほとんど治療されており、すぐ動くことが可能な状態だった。


「兄さん、向こうの世界で八の型も思い出せましたか?」

「ああ、もう体に染み付いている。不思議だよな、記憶を失ってて使えなかった力のはずなのに、思い出せたらまた使えるようになるなんて。」

「それだけうちらはこの型を教え込まれましたからね。当然といえば、当然かもしれません。」

「そういうものか。そうだ、後でみんなに話すつもりだけど、2人には先に話しておきたいことがある。」


 リンは2人の顔を見つめる。


「何かしら?」

「俺はこの先、後2つの型を思い出すことになる。でも、全ての力を思い出した時、俺の体に何か起きるみたいなんだ。それがなんなのかは分からないけど、いざって時は、セラ、アンジェ、2人の力を頼りたい、お願いしていいか?」

「型を思い出し終えた先に起きること……うちはもちろん手伝いますよ!」

「ええ、私も異論はないわ。例えあなたが暴れ出しても、凍り付けにして止めてあげるから安心しなさい。」

「ありがとう、セラ、アンジェ。」


 3人は再びシオンに向け歩き出す。



 その道中、セラはリンに近づき、


「ねえ、あなたはアンジェにしてもらってたこと、私にもして欲しいと思ったりするの?」

「ん?膝枕のことか?まあ、恥ずかしくはあるけど気分は良かった、だからその質問には、はいって答えるかな。」

「……。」


 セラは感じていた、自分はギガスの呪いによって長時間リンに触れることはできない。

 自分の意思や鍛え方で変えられない事実に、悲しみを感じていると、リンは微笑みながら、


「セラの膝枕ちょうど良さそうだよな、将来的に期待してる!」

「ちょうどいいって……変態。」

「え?急に怒られた?」

「今のは兄さんが悪いですね、一回セラさんに凍り付けにさせてもらった方がいいかもしれません!」

「そうね、今膝枕すれば凍り付けにできるわね。」

「嫌だ!」


 賑やかになった3人は、シオンまで残り1時間ほどの距離にまで近づいていた。

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