第118話 脱出

 リンは落とされるギロチンを黒剣で容易く受け止めた。

 今目の前で起きている事に、貴族達と騎士団に扮した人達は驚きに満ちており、固まっていた。


 セラは今起きた事に対し、珍しく大きな声で話す。


「っ!リン、なんでここに来たの!これはあなたが関わるべき事じゃ─。」

「言っただろ、期限は1週間だって。今日がその日だ、朝イチで戻ってこなかったから俺たちのスペシャルメニューを食べ損ねたぞ。食いしん坊な姫様。」

「馬鹿、ここでそんなこと言ってる場合じゃ─。」

「おらよ!」


 黒剣を大きく振り上げ、ギロチンごと処刑場を破壊する。

 ギロチンは砕かれ、木片も飛び散る。


 固まっていた騎士の姿をした者達も、やっと動き出す。


「な、なんだあの男!誰か捕えろ!」

「おう!」


 セラは処刑は免れたが、手足の自由はまだない状態。


「リン!その人たちは!」

「言われなくても分かってるよ、殺しはしないがセラが受けた痛みは感じてもらうさ。二の型、桜羅吹雪サクラフブキ。」


 剣を構え自分に迫る、騎士の姿をした男達三人の剣を桜が舞うように早く鮮やかに弾き飛ばし、隙ができたところを拳で腹に1発ずつ入れ、その場にダウンさせる。


 2人は完全に気を失っていた。


「ぐはっ、あっ、増援を呼んでこい!」

「セラ、走るぞ!」

「ちょっと、リン!」

「そんなことしていいのか、急に出てきた男と姫さん!」

「ひっ!」


 騎士の姿をした者3人が、近くにいた貴族の首に剣を当て人質にとる。


「っ!やめなさい!その人達に罪はない!」

「やめてほしければ元の位置に戻りな、大罪人!」

「くっ、リン、私は─。」

「やっぱり、お前達は騎士じゃねえな、騎士が国民に剣を向ける罪の重さ、理解してないわけがねえ。」

「うるせぇよ、お前も一緒に殺してや─。」


 リンに集中していた男達は、背後に何かが通ったのを感じた。


「っ!?まさか─。」

「お前らのやる事、分かりやすすぎるんだよ。頼んだぞ、アンジェ!」

「はい!一段、霞の空カスミノソラ。」


 気配を消して迫ったアンジェは、騎士の姿をした者達の武器を弾き、そのまま首に衝撃を与え気絶させる。


「っ!?こっちの動きを読まれてる、早く数を増やせ!数で押し切れ!」

「そんじゃあ、お前らが集まる前に帰らせてもらうよ。行くぞ、セラ、アンジェ!」

「あ、あ、ちょっと!」

「はい!ここから北上します!」


 セラはリンにお姫様抱っこされ、アンジェと合流してその場からアテネを北上していく。


「逃すな!そこの奴らはもう殺していい、これ以上行動を許すな!」


 リン、セラ、アンジェはアテネの入り口とは逆方向に走り出した。


 リンはセラをお姫様抱っこしているため、ギガスの呪いによって凍らされてしまう。

 しかし、リンは体に意識的に熱を帯びさせる感覚を常に発動し、セラも意識的に凍らさないイメージを頭に起こし、体現していた。


「リン、アンジェ、どこ行くつもりなの!こっちに逃げ場なんて。」

「それは、アテネに住んでるセラの意見だろ。余所者の俺たちだから見えたものもある、俺たちを信じろ。」

「だ、だけど、これはイリオスの問題よ、あなた達が巻き込まれる必要はない、ここで私を連れて逃げたら2人が同じ苦しみを─。」

「覚悟はできてます、セレジアさんがどんな方なのか、それを知った上でうちらは動いてるんです。ね、兄さん!」

「ああ、今更そんなの気にする関係じゃないだろ?利用し利用される、それが俺たちじゃなかったか?」


 セラは2人の心の温かさに、全身が温められた気がしていた。


 そのままアテネを正門とは逆に走っていく3人。


(くそっ、少しずつセラの呪いが俺の体に効いてきてる、このままじゃアンジェにバレるのも時間の問題か。)

「リン、私の鎖だけ切ることはできる?」

「え、狙うことはできるけど確実に壊せるかは微妙だ。」

「いえ、狙えるならそれで十分よ。10秒ちょうだい、タイミングは指示するわ。」

「あ、ああ、分かった。」


 セラはリンに抱えられながら逃げている最中に、頭の中で多くのことを考えていた。


(一度死を覚悟したのに、リンとアンジェが助けてくれたことで、まだ生きていたい欲が出てきてしまった。……許されないこと、家族に迷惑をかけるって分かってる、けど、この2人の覚悟も無駄にしたくない。……判断の時、よね。)

「兄さん!セレジアさん!敵は15人ほど、100mも開けずについてきてます。」

「予想より少ないな、まあ俺たちはセラを助けられればなんでもいい、取り敢えず作戦通りに行くぞ、アンジェ!」

(作戦?もしかして、私が思っている以上に早く行動を起こしていたというの、この2人は。……なんて優しくて、なんて心に響く人たち、だからこそ、私も決断しないと。)


 セラは心の中で何かと葛藤しながらも、リンとアンジェの覚悟を身をもって体感したことで、どこか切り替えができたようだ。


 そして走る3人の先に見えたのは、


 王都アテネに数少ない庭園、そこから崖になっている地であった。


 はたして、リンとアンジェはどんな作戦を立てているのか。


 そして、セラが出した決断はこれからにどう影響してくるのか。

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