第119話 奇策

「ここは確か、アテネの観光地になってる庭園よね、ここで何するつもり?」

「まあ、その答えはもう少し後でだ、セラ、下ろすぞ。」

「ええ、ありがとう。」


 リンはセラを地面に下ろし、指示された通り手足をつなぐ鎖を狙い黒剣を構える。


「3カウントでいくわよ、リン。」

「ああ、いつでも。」

「3、2、1、今!」

「はぁぁ!」


 リンは黒剣を振り下ろし、鎖に触れる直前に鎖全体が凍り、手足の鎖が氷のようになった。

 その瞬間を、リンは鋭い剣戟により捉え、鎖を断ち切る。


「ふう、かなり荒技だな、セラらしくない。」

「あら、あなたの頭の中のセラがどういう人か知らないけど、ただの大食いじゃないことは証明しないとね。」

「あれ、俺の頭の中読まれてる?」

「本当にそう思ってたの?あとで凍り付けね。」

「あとがあるって事は、俺たちと逃げてくれるんだよな?取り敢えず、集まってきた奴らの顔を拝むとするか。」


 リン、セラ、アンジェは庭園で振り返り、迫る騎士の姿をした者達を視認する。


 騎士の数は16人。


 彼らもリンたちと30mほど離れたところで止まる。


「降参するか、反逆者!」

「反逆?それはお前たちのことか?」

「寝ぼけたことを言うな、騎士に対する冒涜がどれだけ罪が重いことか知らねえか、田舎者!」

「冒涜したのはあなた達の方ですよ、偽物さん。本物の騎士団は、今ここにいない。」

「はぁ?何を根拠に─。」


 アンジェはとある資料を取り出し、男達に見せつける。


「これは、とあるルートで手に入れた騎士団の今日の任務です。この時間、全隊がここから3時間ほど離れた位置のスタンピード制圧に動いています。それなのに、仮にどれだけ重い罪を犯した人だとしてもここで処するには、タイミングが悪い。」

「は?」

「だって、そうだろ?大罪人って、お前達は言ってた、それだけの大罪人が騎士団長のセントだとしたら、抵抗されるリスクも考える。少人数じゃ敵わないことくらい、騎士団なら分かってる。それと、これも証拠だ。」


 リンは部屋から見つけた紙を見せつける。


「この紙は、王都近くの建物で見つけた。一見、ただのテロを支援する内容だが、頭文字だけ見れば、1時半死刑、アナウンスする言葉になってた。」

「そんな紙、どこにもなかったはず、なぜ貴様らが。」

「理由は分からねえけど、なぜだかこの紙は四隅が千切れてた。破片は天井についてた、恐らく魔術の類で重力を操り、四隅だけ天井に向けて圧力をかけ、魔術が解けて落ちてきたんじゃないか?」

「馬鹿な、まさかあの一瞬で─。」

「それだけここにいる姫さんは、優秀だってことだよ。テメェらなんかよりな。」


 リンとアンジェは武器を構え、セラは2人の後ろに立つ。


「ちっ、まあいい。アテネが落ちるのも時間の問題だ!そこの女さえ殺せば、抵抗する戦力はほとんどいなくなる、人心も離れたアテネに未来はない!」

「あなた達、身喰らう旅団に雇われた傭兵と、旅団のメンバーが混在してるわね。言葉遣いがなってないわよ、騎士とは程遠い存在。」

「そこまで分かってるなら、逃げ場のないところに逃げ込んだ愚かさを知れ!戦えない女を庇いながら、俺たちに勝てるなんて思ってないよな!」

「そうだな、ここでお前達を倒すのはいい案だとは言えないな。だから、俺たちの選択は!」


 リンは再びセラを担ぎ、次は肩に乗せる。


「え、ちょっと!リン!」

「俺たちの光は俺たちが頂く、追いかけてくるのは自由だが、命賭けろよ、チンピラ。」

「くそがっ!舐めてんじゃねえぞ!殺せ!お前ら!」

「うぉぉ!」


 騎士の姿をした者達は、剣を構え3人に迫る。



 その姿に焦る姿を現さず、冷静に、


「行くぞ、アンジェ。セラ、舌を噛むなよ!」

「舌を噛むって、まさか!」

「そうです!逃避行、空から参ります!」


 リンはセラを担ぎ、アンジェが先頭で崖の方に走り出し、



 誰が予想したか、


 大ジャンプして崖から飛び降りた。


「なっ!こいつら!」


 3人は崖下に加速して落ちていく。



「ひぃぃ!!」

「楽しんでるのか、セラ?」

「そんなわけないでしょ!この状況で誰が楽しめるの!」

「着地まで100m切りました、いきますよ兄さん!五段、時化空シケゾララン。」


 アンジェは短剣2本を逆手に構え、体を回転させ竜巻を巻き起こす。


 下に見える枝が吹き飛ばされ、視界が開ける。


 続けて、


の型、月華乃凪ゲッカノカゼ。」


 リンは白い斬撃を3発放ち、地面に着地するまでの太い枝などを折り、風圧で落下スピードを緩める。


 しかし、まだ安全なスピードにまで落ちていなかった。



 最後に、


「セラ!俺の剣を使え!」

「え!?ああ、もう!照らせ、エメラルド!」


 黒剣をリンから受け取り、セラは緑色の魔術を発動し、前面に結界を生み出す。



 そして、


 地面に衝突すると同時に、結界が割れ、3人は無事着地する。


 空を飛べる生き物が見ても、驚きの着地方法であった。



 3人は無傷で着地し、


「ふぅ、よく生きてたな、俺たち。」

「本当ですよ、兄さんの予定ではうちらだけで着地するはずでしたよね?」

「予想以上に高かったみたいだ、でもセラもいてくれたからなんとかなった、ありがとうな、セラ。」

「……。」


 セラは何も呟かず、足を振るわせながら2人の前に立つ。


「セラ?」

「この、この。」

「この?」


 セラは涙目で2人を睨みつけ、


「この馬鹿兄妹!」

「うがっ。」

「痛いっ!」


 2人にデコピンがクリーンヒットした。

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