第102話 兄妹の力

 アンジェは重傷の体を動かし、短剣を2本逆手に構え目の前から迫るイノシシ型モンスターを捉える。


「あたしなら、平気だから、その体じゃ君が─。」

「うちは、リン兄さんと離れ離れになって、肉親が死んだと思ったその時の、言葉にできない感情は今でも鮮明に覚えてます。カグヤさんにも家族がいます、その人達に同じ思いはさせたくないです。だから!」


 アンジェはイノシシ型モンスターに対し正面から立ち向かう。



 そして、振り抜かれる牙をスライディングで避けながら、


「三段、驟雨シュウウラン。」


 目にも留まらぬ速さで振り抜かれた4撃が、イノシシ型の息の根を止め魔石に変える。


 アンジェのキレは、レムと同等かそれ以上であった。


「っ、怪我人を戦わせるのはあたしの信念に反しますが、そうも言ってられませんね!」


 レムも目の前のイノシシ型を短剣で切り裂き、


「アンジェさん!」

「はい!」


 2人は背中合わせでスタンピードを見つめる。

 モンスターの数、約60体。


 カグヤの体力は底をついており、エリ、リーナ、戦士3人も軽傷。


「アンジェさん、何分無茶できますか?」

「そうですね、5分でお願いしたいです。」

「分かりました、では3分で終わらせて、アディショナルタイム2分にしましょう。エリさん!リーナさん!カグヤさんを守りつつ、着実にモンスターの討伐を!戦士の3名はスリーマンセルを崩さないで対処を!」

「分かりました、お2人は?」

「うちらは、やることは1つです。」


 2人は目の前から迫るスタンピードに突き進む。


 その中には、オオカミ型の通常モンスター、ゴリラ型、ハチ型、イノシシ型、トラ型まで複数存在していた。


「前線はあたしが担当します。」

「では、うちはサポートに回ります。信じてますよ、レムさん。」

「はい、いきましょう、アンジェさん!」


 前をレムが走り、迫るオオカミ型の通常モンスターの足を短剣で切りつけ、畳み掛けるように、


「二段、縦時雨タテシグレ。」


 飛び上がったアンジェが、縦回転しながら目の前のオオカミ型モンスターと、空を飛んでいた蜂型を倒す。


 アンジェを警戒したゴリラ型が、拳をアンジェに向け放つ。


「あなたの敵は、あたしですよ!聖軍剣術セイグンケンジュツ追式ツイシキ滝壷タキツボ。」


 振り下ろされた短剣の鋭く重たい一撃が、頭から足まで切り裂く。


 間髪入れず迫るモンスターに対し、空中にいるアンジェは、


ヨン段、深雪ミユキサン。」


 短剣から鋭く速い斬撃を3発放ち、さらにトラ型のモンスターを倒す。


 5秒で、4体のモンスターを討伐した2人。


 その動きは、熟練のパートナーのように洗練されていた。


 2人をスルーして先に進む蜂型モンスターに対しては、


「行かせないよ!」

「わたくしたちが門番です!」


 エリとリーナが細剣で殲滅する。


 モンスターの数は、確実に減っている。

 アンジェ、レムの連携は凄まじい破壊力だった。



「次、2体のゴリラ型です!アンジェさん!」

「はい!六段、曇天ドンテン。」


 呼吸を整え、目を瞑り、強く見開くと共に2体のゴリラ型の動きを鈍らせる。


 そこへ、


「はぁぁ!」


 レムの鋭い短剣が振り下ろされ、さらに討伐。


 レムを殺そうと、ハチ型が2体迫るが、


「一段、霞の空カスミノソラ。」


 ハチ型の位置を何かが通過した、次の瞬間、気配を消して迫ったアンジェに討伐される。


「はぁ、はぁ、まだ40体はいますね。」

「そうですね、はぁ、レムさんまだいけますか?」

「ええ、アディショナルタイム含めて後4分15秒、何としても止めます─。」


 2人が攻勢に出ようとした次の瞬間、


「ガォォ!!」

「っ!?雄叫び!?」

「しかも前からではない、うちらの背後から!」


 誰が予想したか、まだ40体ほど残っている状況で、次のスタンピードが発生したのだ。


 シオンに向けて、追加で80体ほどのモンスターが迫る。


「そんな、スタンピードが同時に発生!?冗談きついわ、10年前に一度しか起きたことなかったのに。」

「でも、このままではシオンが終わりです。……レムさん、こちらはお任せします。」

「っ!?何を言ってるのですか!その体であの数を相手するなんて死んでしまいます!」

「確かに、その可能性は高いかもしれません。でも、うちはうちの戦います。体がどうなっても、大切なものを手放したくないから!」


 アンジェは傷口から血が滲みながらも、もう一つのスタンピードに突き進む。


「くっ、死ぬ気で持ってよあたしの体、1分で目の前のモンスターを片付けて、アンジェさんの助けに入るんだから!」


 レムもさらに覇気を増し、残りのスタンピードを相手した。



 アンジェは斬撃を放ち、2体のハチ型を倒し、迫るトラ型の爪を避け、短剣で切り裂き倒す。


 だが、圧倒的な数な上に、体は危険信号を出していた。


(うっ、後3分持つかどうかってところね、でも、うちはやるって決めたんだ!)

「五段、時化空シケゾララン。」


 体を回転させ、短剣と共に大きな竜巻を放つ。


 3体のモンスターを討伐するが、危惧していたことが。


「うっ、傷口が開きつつある。これじゃあ、持って2分。どうする、どうやって数を減らす─。」


 思考で動きが鈍くなったその一瞬を、虎型モンスターは見逃さずアンジェの顔目掛け爪を振り下ろす。


「アンジェさん!」

「っ、こんなところで。」



 爪が届くまで15cm。




 目を瞑るアンジェ。




 そこに、


 レムの髪を揺らし、高速で通過する何かが1つ。


の型、月華乃凪ゲッカノカゼ。」


 大きな白い斬撃が、トラ型を切り裂く。


「……、信じて、よかったです。」

「すまない、遅れすぎた。」

「いえ、まだセーフですよ。兄さん。」


 そこに立っていたのは、リンだった。


「アンジェの兄貴、現着。お前ら、俺の家族を傷つけたんだ、覚悟の準備はできてるか。」


 リンは黒剣を構え、スタンピードに参戦した。

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