第103話 ムクナの弟子

 ふらついたアンジェの前に、リンが颯爽と現れハチ型を目で追えないスピードで討伐した。


 リンの目は、殺意とは違う、怒りが静かに込み上げ、睨みつけるだけで数多のモンスターをビビらせていた。


「アンジェ、傷だらけの姿で戦わせることになってすまない。」

「いえ、兄さんたちの帰る家を守れるならうちは全力で戦いますよ。」

「傷だらけの体でよく言うな、誰に似たんだか。」

「おそらく、目の前の黒剣を構えたあなたですね。」


 リンはアンジェに手を伸ばし、ふらついた彼女の体を自分の方に寄せる。


「無茶をすると、ムクナ師範に怒られるぞ。」

「その時は、兄さんも一緒にお叱りを受けましょう、妹だけ叱られるのを見るのは辛いでしょ?」

「ふっ、俺の妹は悪女の才能があるのかもな。」

「兄さんはうちのことを思い出せていない部分がまだありそうですね、スタンピードを終わらせたら教えて差し上げますよ。」

「じゃあ、こいつらを俺たちで片付けるか。俺たちの家は、俺たちで守る。」


 黒剣を構えるリンと、2本の短剣を構えたアンジェが隣同士に立つ。


 目の前からは、イノシシ型モンスターとトラ型モンスターが迫る。


「アンジェ、俺たちなら言葉はいらないよな。」

「そうですね、師範から継いだ戦い方を、兄妹の力を見せつけましょう!」


 2人はそこから何も話していない、動いたのはお互いの視線と体のみ。


 まずはリンが先頭で走り、


「一の型、華火ハナビ。」


 黒剣を抜刀すると共に、目の前のトラ型を斬り上げる。

 魔石に変わったと共に、リンにはイノシシ型の牙が迫る。


 残り10cmというところで、


ヨン段、深雪ミユキイチ。」


 青い十文字の斬撃がイノシシ形を斬り裂く。



 さらに迫る数多のモンスターに対し、


 リンは黒剣で相手の攻撃を捌きつつ、隙を作り出したらアンジェがトドメを刺す。

 さらに、サイズが大きい個体はアンジェがバランスを崩させリンが斬り捨てた。


 1分とかからずに、2人の縦横無尽な戦いが確実にモンスターの数を減らしていった。


 スタンピードのモンスター達も怯えているのだろうか、それとも2人のスピードに追いつけないのか、無闇に攻撃を放ち生まれた隙をリンとアンジェに見極められ倒されていた。


 そこまでのリンとアンジェの行動は、これまでの連携とは比べ物にならないものだった。


 お互い指示を出すのではなく、視線での合図や、はたまた何も表現していないのにお互いの意識がシンクロしているかのように一気呵成に攻め立てたのだ。


「がぁ!?」

「反応が遅いぞ、そんなんじゃあ!」

「後10倍は連れてこないとこの村は落とせませんよ!」


 2人の斬撃が目の前の3体のモンスターを討伐する。



 リンとアンジェの戦闘は順調に進んでいく。


 しかし、反対側でレムの孤軍奮闘も限界が見えてきた。


 モンスターの数は30を切っただろう。


 しかし、いかにレムという戦闘に慣れた人間でも、これまでに感じたことのない疲労が細い体を襲っていた。


「くっ、あと少しなのに倒し切る力が足りない─。」

「なら、私の力を使う時でしょ。照らせ、サファイア。」


 レムに迫る通常のオオカミ型モンスターが、氷の青い斬撃により討伐される。


「っ!セラ様!」

「ごめんなさい、レム。あなたにここまで負担をかけてしまって。後は私が前衛を担当するから、援護はお願いするわよ!」

「はい!セラ様がいてくれるのが分かった途端、なんだか力が漲ってきました!」

「無茶をした罰は後で受けてもらうから、私と一緒にね。」

「ありがとうございます!」


 レムの返事がおかしいことにはツッコミは入れず、レムとセラも旧友として戦ってきた経験が活かされた。


 セラが前線でモンスターを抑えつつ、魔術を駆使して多くのモンスターの行動を制限する。


 その隙に、レムは素早い動きで短剣を突き刺しモンスターを討伐していく。


「っ、反対側もセラが合流したみたいだな。そしたら、ここからやることは!」

「うちらの反撃ですね!」


 重傷を負いながらも戦い続けるアンジェ、そしてリンとアンジェの見惚れてしまうほどの連携は、モンスター達を一歩とシオンへと近づかせていなかった。



 だが、スタンピードで1番の恐れていた事態が発生する。


「っ?この足音、威圧感、普通じゃないよな。」

「そうですね、何か嫌なものが、とてつもない大きさのものが迫ってきます。兄さん、スタンピードの終わりが近い時に現れるモンスターをご存知ですか?」

「いや、まだ俺は会ったことないし、正体も知らない。アンジェは知っているのか?」

「はい、簡単に言えば群れを率いるボスが必ず存在しているんです。この足音、雰囲気、その本体がうちらの元に迫ってます。」

「そんじゃあ、俺たちがこれから出会おうとしてるのが、そいつってことか。」


 リンとアンジェの目には、遠くから他のモンスターを掻き分け体に金属装備をした何かが迫るの分かる。


「はい、あいつを倒せばスタンピードは終わりになります、すみません、うちがもっと動ける体なら。」

「心配するな、兄貴は後に生まれてくる妹や弟を守るのが役目だ、でも、1人じゃ厳しいかもしれない、だから背中は任せるぞ、アンジェ。」

「っ!はい!兄さん!」


 スタンピードを終わらせる、最後の戦いが始まろうとしていた。

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