PART3 その7(終)



 エトルタでゆっくりとする暇もなく、正午にはここから出て行き、ル・アプールに向かわねばならない。

 だから軽くサンドウィッチをシスターにつくってもらい、珍しくも教会で食事することにした。

 いつも通り運転手とスイス人は意気投合し、今回の旅が終わったあとも連絡をするらしいが、男の友情には興味がないから隅っこで食べていた

 この時私は少し予想外の相手に話しかけられた、油をこぼし、渦の発生の原因となったシスターにである。

「昨日はすみませんでした、早く片付けるべきでしたのに」

 そんな当たり障りのない謝罪から始まり、よくあるフランス絵画の話題やライブミュージックについての話にも移ったのだが、話の終わりにこの話で最も奇妙なことを挿しこんできた。

「あの、実は零してしまったのはですね、すごいあなたの顔に見覚えがあったからなんですよ…」 はあ、と私は食べ終わり、彼女とここで初対面で会ったことを思い出すが、初対面であっても銃を乱射するようなやつがいるからそこら辺は人によるのだろうと思った。

「いえ、あの疑ってますけど、こちらを見てください!」

 私はシスターが差し出したものを見て立ち上がり、葉書を手に取り驚いた。

 シスターはこう挿しこむ。

「つい、送られてきた絵葉書があなたとそっくりだったために、つい凝視してしまったんです。そうしたら零してしまい、それであなたが転んで、で 今あなたと話してる…

 なんかそういう偶然の連続ってあるんですよねたぶん!」

 後ろ向きに前向きなシスターはこの絵葉書の重要性についてわかってないようだ。

 この絵葉書に描かれてる少女の姿は間違いなく10歳ごろの私だ。

 そして絵葉書に描かれた文字はこう、『忘れられた私の慰めのために』と記されている。

「あっもしかして、お知り合い何ですか?すごい!どんな人なんです?」

「どんな人って、君は知らないの?」

「えぇと、祖母からは助けてくれた人だって、すっごい年寄なんですかね?でも凄いですよ、イマドキの音楽に詳しいんですから!ジム・モリスンの話をまだするのはおじいちゃんっぽいですけどね。」

 この時の私は知る由もないが、クラブ27は27歳で急死したミュージシャンを入れる棺桶としての語彙でもあるらしくこの世界で広まりつつあった、かつてドイツを地図から消した青葉イオラニ・ミコトは平和な時代に雲隠れし、私の知らないどこかで活動している。

 初恋のシャボン玉はどこまで登っていくのだろうか うつくしいねがいごとはどこまで叶わなければうつくしいのだろうか


 しかし、首尾貫徹奇麗に終わるものなどない、車内スイス人の特派員は話しかけてきた

「ソーニャ女史、いいことを教えてあげましょう。来年、彼女は月から戻ってきます。その際ちょうどあなたには人生最大の危機が訪れます、その時クラブ27に依頼をしなさい。もちろん彼女は姿を現すことはございませんが、大丈夫 あなたの依頼ならちゃんと聞くでしょう」話の意図が見えず、単に「何の話で?」と聞いたのがまずかった

「イオラニの話ですよ、」いや何の話なんだと私は繰り返すととんでもないことを最後に言ってきた。

「あぁ、そう私は元クラブ27なんです。」運転手もそれを聞いて

「私も実は」

 どうやらこのお話は今の私には知らない話につながっていくようで、

 結局この旅では私は生きることしか決められなかった。


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天使綺譚・第三章 エトルタの絵葉書 小高区雑記 @1916_WonderfulLife

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