PART3 その6
私はずっと、忘れようとしていた、母のリウマチの苦しみを。
祖母はくるしかったはずだ、母のことを大切に思っていたのだからもし狂ったのだとしてもそれは一時で今続くことだと断定はできないはずだ、少なくとも今はしたくない。
それだけでいいという発想だったのだとおもった、物事がどれだけ正しいかなんて判断なんて後の人たちに任せればいい、だから私は今生きればいい。それでいいのだ。
そんな生きようと決意した私に対して、ドクトル・オルガは納得がいってないようでどうやら最後の手段とやらに出るらしい。
「えぇ、えぇ、えぇ。勿論それもいいでしょう うん えぇ?はぁ、そんなくだらない結論を?!ばかばかしい、月間漫画ガロ!?目医者をよこせ目医者を!とんでもない えぇいとんでもないことをしたな! あぁ人間が単独でモナドを破るなんて、まずい。」
オルガの私を見る目は獲物を見る目から敵意へと変わっていた「貴様はイレギュラーだ。少なくとも十年の歴史を変えかねない人物」
彼は髪をぐちゃぐちゃに、頬を寄せたり引っ張たりせわしなくしながらピタっと止まった そしてこう宣言する。「永遠の夢を見て貰う、実力行使だ。」
さすがに怒らせすぎたようで、彼はいつもの映画監督として振舞おうとする「カット」だが、彼の力はここで終わりらしい。
その場にいたもう一人の天使、ウツロの体当たりによって倒れる。
ぎゃぁっというオルガの悲鳴からあとは体の拘束は解かれ、こっちだよというイライジャの呼び声に従い、手をひっぱられて、私は絵画から離れることになった。
覚えていたら、またあの絵画を見に行こうと思った。
イライジャに手をひっぱられて出口へと向かうと、さっそく彼女の軽口が聞こえてきた。
「やっぱり現れたね、オルガ キミ、あいつには気を付けた方がいいよ。なにせ投資の話ばっかりで面白くない。」
あの、という声に気づきイライジャが後ろを振り向くとちょっと驚いていた「あれま、いつの間に大きくなったのソーニャちゃん?まあいいや、そういうこともあるよね、こんな不思議な世界ではさ ミコトちゃんにもあってほしかったんだけどなぁ、釈明とか色々必要でしょ?君は彼女に助けられたんだよ海に落っこちた後、よく生きてたのはそういうこと。ミコトちゃんに感謝しなよ。」
そうか、彼女とはそういう繋がりがあったのか。
私は何から何まで彼女に救われっぱなしなのだな。
出流との通信がこちらにも聞こえる「すまない、オルガに逃げられた!やつはドールにのってこっちと戦うつもりだぞ!」
どうやら事態は切迫してるようで、息切れしてる私を置いてけないイライジャは即決した。
「ねぇ、ソーニャちゃん、私たちが空を飛ぶのは知ってるよね?じゃあさ、ドールに乗って戦うのも知ってるよね?今からさ、一緒に乗って それで協力してよ!」
当時の私はここをよく覚えている、戦いというものにどれほど心躍ったか、それに戦いがどれほど怖くともイライジャやイオラニといれば怖くないとも分かったのがこの頃だ。
私の総てが当たり前で終わることのない物語はこの時始まっていて 忘れていたために、怖がっていたのだ。
だからもう大丈夫だろう
私はこのままドールに乗って空中へ昇り、そのうち夢の渦から脱出できたのだから。
気づけば、朝になっていた。
汗でぐっしょりとしていて、フランス沿岸の日差し、ひんやりとした感じなのにどこか暖かった。
「おはようございますソフィアさん」
レグザが目の前に現れた時、少し身構えたが、スイス人と運転手が姿を現したことで安心に変わった。
夢の出来事は忘れてしまう、だから天使は覚えられないとやつは言っていた。
だが、私は夢の中で思ったように、旅をニイハウ島にまで延長しようと思った。
再び絵画を見て、そこで改めて彼女について考えようと思った。
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