最終話「約束の空」

核を回収したマーリンは、すぐさま空を駆けた。


黒く荒れ果てた海の上空——

遥か彼方、都市へと向かって泳ぐナギの姿が見える。


(……逃げ場が、もうなかったのね)


ナギの核から伝わる魔力が限界を訴えていた。



もう——


一刻の猶予もない。




「ナギ!!!」


叫ぶマーリンに、ナギが顔を上げる。


「!!」


黒龍の咆哮が背後に迫る。


ナギは最後の力を振り絞り、空へと跳ね上がった——!




その姿に、マーリンは息を呑む。

ズタボロの身体。


右腕も、左足も、もう無い。


それでも——彼は、生きていた。


「よく……ここまで……」




胸が、熱くなった。


マーリンは、ナギを抱きしめる。




その瞬間――


ドォオオオオオオ!!!


巨大な黒龍が、水面を飛び出し二人を丸ごと飲み込んだ。






だが————。


カッ!!




龍の体内が、太陽のような光を放ち――




爆音とともに




黒龍を激しく爆ぜさせた。




残りの龍もすべて消えていた。


まるで最初から存在していなかったかのように。






ナギを抱きしめたまま空中に放り出されたマーリンは、落下しながら最後の力を振り絞る。


(ナギへ――治癒魔法を、限界まで撃ち込む!)


再生される四肢。止まっていく出血。

だが――生死は、まだわからない。


「ナギ!ナギ!!」


反応がない


マーリンの顔に焦りが浮かぶ。




バシャッ!


海に落下。



急ぎ浮上し、ナギの心音を探る。


すると――




「……遅いよ」


「……!」


マーリンが、ハッと顔を上げる。

ナギが、笑っていた。


「バカ……最速だろうが…」


荒れた海。土煙に覆われた世界の中で、

水に浮かぶ二人だけが、穏やかに呼吸していた。


今やこの世界で、

彼らほど“安全な”存在はいなかった。


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