エピローグ「蒼海の果てに」
エイルは、黒色燃料の応用により——
衣服、器具、プラスチック、機械、エンジン。あらゆる文明の土台を再構築した。
魔法が失われた後の世界で、人類を救った英雄としてその名を刻まれる。
今も彼女は、G・パーダーを側に置き、研究を続けている。
かつて“悪魔のような発明”と呼ばれた彼の爆薬も、今では医療や建築に応用され、社会を支えている。
マーリンは、軍医ジョイス、そしてエルグの秘書とともに新政府を立ち上げた。
だが自らが政を担うことはなく、適任者に任せることを選んだ。
彼女が戻ったのは、かつてエルグが築いた塔。
修復されたその場所で、彼女は静かに魔法を使い続ける。
都市エネルギーの三割をまかなう、マーリンにとってささやかな発電。
残りは——火力発電。
それは黒色燃料による炎が担っている。
世界は、ゆっくりと歩き出した。
そして——
ナギは独立したドルフィとともに、今も、海を泳いでいる。
魔法をすべて失ったこの世界で、唯一、彼だけが“泳げる”。
マーリンは、彼のために――
ほんの小さな、かけらだけを残してくれた。
それが、どれほど大きな救いだったか。
ナギ自身にも、わかっていないのかもしれない。
蒼海は、今日も果てなく続いている。
波が静かに揺れる。
風が水平線を撫でる。
ナギは泳ぎ続ける。
その瞳に——もう、黒海は映っていなかった。
fin
蒼黒に縋る 光春樹 @mitsuharu-itsuki1176
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