第27章 新時代
門前――
マーリンとエルグの戦いはもはやこの世界のものではなかった。
大量の魔力を筋肉へ、骨へ、神経へと流し込み、常人の数百倍の速度と威力で拳を打ち合う。
雷撃も、火炎も、互いの拳に恐ろしい魔力量とともに込められ、殴りつけるたびに互いの体内で爆発する
ただ派手に魔力をまき散らしていてはこの国は一瞬で崩壊する。
二人ともそれはわかっていた。
マーリンは自らを治療しながら戦い、
エルグは魔力の大部分を防御魔法に置き換えていた。
しかし、マーリンは困惑した。
(つ…強い…!!)
エルグの魔法力はマーリンが想定していたものとは全く別次元だった。
核だけではここまで強くなれない。
「私はな!この三百年間ただ遊んでいたわけではない!来るべき黒龍との決戦――そして貴様との再会に備え、私は三百年、魔力の本質を極め続けてきたのだ!」
さらに高速化する打撃
さばききれなくなったエルグの拳がマーリンに直撃する。
衝撃はマーリンの体を貫通し後方に吹き飛ばされる。
「ぐぅっ!」
吹き飛ばされたマーリンの身体が、石造りの門壁に激突し、そのまま崩れ落ちた。
瓦礫が舞い、煙が上がる。
「はぁ……っ、はぁ……っ」
息を切らしながら、エルグがゆっくりと歩み寄る。
青白い稲光が、なおも彼の全身を這っていた。
その眼は、怒りと使命とが入り混じった、恐ろしく冷たい光を放っていた。
「あなたから、再び“核”を抜き取る。そして……」
膝をついたままのマーリンが、血の混じる咳をひとつ漏らす。
その頬を、涙が伝っていた。
「それをもって……この私が……黒龍を仕留めてみせる!」
エルグの腕が振り上げられ———
拳に、防御を捨てたすべての魔力が込められる。
「……あなたと、この世界の未来を、作ってみたかった」
その声は、ほんのわずかに震えていた。
だが、次の瞬間。
――ガシャンッ!!
門の上階の窓を突き破り、人影が落下してくる。
「うぉおおお!」
その両手には大きな石が持たれている。
反射的に回避を試みるエルグ
だが次の瞬間、エルグの肩に強い衝撃が走る。
「ぐっ……!?」
大きく体勢を崩し、エルグは後ろによろける。
振り返ったその先――
門の屋上から、飛び降りた人影を見てマーリンが叫ぶ。
「ナギ!」
「……ナギだと?」
(グリナスが言っていた海の能力者か!)
エルグの表情が一気に怒りに染まる。
「お前が……お前がいたから……っ!!」
その言葉は、怒りに飲み込まれた獣のようだった。
雷がエルグの拳に凝縮され、信じられないほどの魔力が渦を巻く。
「まずい!!」
マーリンが叫び、急ぎ防御魔法を施す。
だが、焼け石に水だ。
バギィィッ!!
一撃。
エルグの拳がナギの腹部にめり込む。
骨が砕ける音が、はっきりと響いた。
「がはっ……!」
吹き飛ばされたナギは、門の内側の石壁に激突し、その場に崩れ落ちる。
「ナギ!!」
遠くから、再び魔力が飛ぶ。
マーリンの防御と治癒が、ナギを包む——
しかし、それでもなお、傷は深く、苦悶の声が止まらない。
目の前に、殺意の塊そのものとなったエルグが立つ。
雷光が、今にもナギを貫こうとしていた。
「お前さえいなければ……」
振り上げられる拳。
「やめろ!!エルグ!!」
マーリンの声は、もはや届かない。
しかしその瞬間———!
「ナギ――――――!!」
門の屋上。
その声と共に、黒い筒を構えた少女が姿を現した。
エイルだった。
エルグは警戒した。
(……なんだあれは? 筒? ……投石器か?)
エルグが眉をひそめる。
ほんの一瞬の逡巡。
その刹那に、引き金が引かれた。
ボガァァァアアアン!!
爆音。
炸裂音。
想像を遥かに超えた衝撃が、エルグを吹き飛ばした。
その肉体が宙を舞う。
「ぐぁああああッ!!」
爆風が門前を包み、瓦礫が舞い上がる。
ナギは、マーリンの防御魔法によってかろうじて守られていた。
――そして、煙の向こうに…
エイルが、黒い筒を肩にのせて、静かに佇んでいた。
「ふぅ……間に合った」
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