第16話 いくら実力があってもね

「は~ぁぁ。」


猛進もうしんの大きく深いため息がこぼれる。


「なによ、どうしたのよ、うり兄。

今から準決勝って時に。」


そう応花が、練習投球もしないで椅子に座って、だるそうにしている猛進に声をかける。


「だって、オレが望んだ結果じゃないもん。オレはこの準決勝で遠山とおやま木下きしたのどっちかと戦いたかったんだよ。」


そう答える猛進にじゅんが言葉を返す。


「何事も想像通りうまくいくとは限らねぇよ。切り替えろ。自分の望み通りにならなかったからって、毎回そうやってたら大会なんて出てられねぇぞ?」


純の言葉に猛進は不満そうな目を向ける。


そんな猛進の頭を母親が強く叩く。


「いって、何すんだよ。」


そう猛進は母親に目線を向けて文句を言う。


「あんた、プロになる気なんでしょ?」


母親にそう聞かれ、猛進は「そうだけど」と答える。


「だったら、相手が誰であれ全力で戦うのが“敬意”ってものよ。

その敬意もないのにプロになろうとするなんて、お母さんが許さないわよ。

それこそ、いくら実力があってもね。」


母親の厳しく──しかし正しい言葉に、猛進は何も言い返せなかった。


「分かった。分かりましたよ。

気合い入れてやらせてもらいます。」


そう言うと猛進は立ち上がって練習投球を始める。


「さすが、おばさん、いいこと言いますね。」


そう応花が、隣に座っている猛進の母親を褒める。


「ああいうひねくれた男の扱いは、悲しいことに慣れちゃってるからねぇ。

誰かさんのせいで。」


そう言いながら猛進の母親は、応花とは逆側の隣の席に座っている旦那に目線を向ける。


旦那はよだれをたらして寝ていた。


そんな旦那に猛進の母親は怒りを爆発させる。


「あんた、何寝てんのよ!!

息子の晴れ姿でしょ?! ちゃんと起きて応援しなさい!!」


背後で響き渡る母親の声に、猛進はとても恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。


(次から、あの二人を大会に呼ぶのはやめよう。)


そう猛進は硬く心に誓うのであった。



相手の強さと自分の緊張次第で集中力が大きく変わる猛進だったが、母親の言葉通り、できるだけ全力で戦い、212点というスコアで勝利する。


「ひぃ~。うまく集中できないと、ボウリングは疲れるなぁ。」


そう言いながら猛進は、メインレーンから少し離れた所にある練習レーンの椅子に座る。


「まぁまぁ、お疲れさん。」


猛進に気遣いの言葉をかけながら、応花は紙コップに入ったピーチソーダを猛進に渡す。


「おぉ、サンキュー。」


そう言ってピーチソーダを受け取った猛進の目線は、メインレーンで練習投球をしているりんとおるの二人に向く。


「なぁ、純。木下はどういう選手なんだ?」


そう猛進が尋ねる。


「ローダウンボウラーだよ。」


「ローダウン?」


そう聞き返す猛進に、応花が答える。


「通常よりも回転力が強く、大きく曲がるボールのことだよ。」


応花の説明に純が言葉を付け加える。


「ボウリングにおいて、ボールのパワーは3種類ある。

1つは純粋にボールの重さによるパワー。

2つ目は、お前のボールみたいに速いスピードによるパワー。

そして3つ目が、回転によってピンを弾き飛ばすパワーだ。

言わば、ローダウンはこの3つ目のパワーが強い投げ方だよ。」


応花と純の説明に、猛進は納得した様子で「ふ~ん」と頷く。


「まぁ、その威力は実際、お前の目で確かめろよ。きっとワクワクさせてくれるぜ?」


純の言葉に猛進は軽く微笑むと、「そいつは楽しみだ」と言葉を返す。


そしていよいよ、準決勝第2試合・燐VS透の試合が始まる。


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それでは、また次回お会いしましょう。

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うり坊~超速ストレートボウラー~ 若福 @7205

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