第9話


 紅葉した葉が、地面を彩る。

 その上を歩く私の姿は、シャッキリとした、スーツ姿だった。

 今朝、あの姿見に映る自分を見て、驚いた。

 決してイケメンではない。けれど、痩せたことで少しまともになった顔には、彼女の面影があった。

 とくに目元はそっくりで、双子の兄弟と言われても、不思議ではないくらいに。

 父の肩身、おさがりのスーツは、昔なら袖を通すことすら無理だっただろう。けれど今は、ほどよくついた筋肉のおかげで、まるで数年この格好で働いていたと思えるほど様になっていた。

 この1年で、いくつか資格を取った。

 大学に行く余裕が無かった自分を助けてくれる武器が必要だと感じたから。

 町内のボランティアなどにも積極的に参加した。

 高校卒業後、何もしていない期間が長すぎたからだ。

 焼け石に水かもしれないけれど、少しでマシにするために。

 本も、新聞もたくさん読んで勉強をした。

 社交的な彼女を見習って、人との交流も深めた。

 1年で急激に変化した甥に、叔母は何か良くないものにハマったのではないかと心配していたけれど、変わらずゲームが好きな姿を見て、胸をなでおろしていた。いや、そこで安心してほしくないけれど。

 これから私は、面接に向かう。

 彼女を、送り返すための、最後の試練。

 私が就職すれば、彼女は私の心の中に帰れる。それが、私たちの結論だ。

 全ては、この日のために。

「胸を張って行きなよ。今の君は、誰よりかっこいいし、誰より強い。私だから言えるんだ。さ、堂々と出ていって、自慢げに帰ってきてよ」

 いつの間にか、口調が変わっていた彼女は、いつもより固い笑顔で、私を送り出す。

 別れが、近づいている。

 それと同時に、自分が消えることを惜しんでいるのか、怖がっているのか、それとも、また別の感情なのか。

 同じ私のはずなのに、結局、わからないままだった。

 だけど、わかることは、1つ。彼女を突き飛ばさないと、私は次の1歩を踏めないこと。

 これまで助けてくれた彼女と、殺してでも別れないと、私は変われない。だから。

 それじゃあ、またいつか。

 その一言をお守りに、面接を迎えた。

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