第7話


 ちゃぶ台を挟んで2人、顔を突き合わす。

 彼女はペンを握って、2人の似顔絵を描いた。

「まず、仮説だけど、私たちは同一人物なんだと思う」

 矢印で結ばれた2人。けれど、その矢印の矢尻は上下で長さが異なっていた。

「いわゆるパラレルワールド的な考え。だけど、違うのは、私は貴方の妄想で生まれた存在。なんだと思う」

 そういって、矢印の真ん中にもやもやが書き足され、そこからぐるぐるの線が彼女に向かっていく。

「貴方はきっと、自分のことが大っ嫌いなんだと思う。その上で、自分とは真逆の存在がいたとして、きっとその人が大好きになると思う」

 私から向けられるハートの矢印。彼女の考えは、合っている。

「私の理想は、私と真逆の人間。貴方と同じ。けど、違うのは、私は貴方が痩せていて、優しくて、勤勉になることを望んでいる」

「だから、私は鏡を通して、貴方の中から出てきた。貴方自身が変わりたいと、心の奥底で願っているから」

 ……当たりだ。彼女を見て、こうなりたいと、思った自分がいる。そして……

「貴方が変われば、私は消える。自分に満足して、今を変えることが出来れば、きっと」

 私は消える

 言いたくないことを、言ったような。けど、言わなくちゃ、いけないことを、彼女は口にした。

 その言葉を、ペンが転がる音がかき消して、部屋は無言で満たされる。

 矛盾は多い。私が望んでいないことまで、反転しているのはおかしいと、わかっている。

 けれど、彼女の仮説は、真実だ。

 私は変わりたい。これまで、きっかけがないから、考えとして頭に浮かんで来なかっただけで、変わらないといけないと、わかっている。

 暖房の効きすぎた部屋のなか、汗がぽたりとこぼれる。

 ぽた、ぽた、ぽた。水滴が弾ける音は、止まらない。

 ……汗だと、思うことにした。

 目を伏せて、1口、お茶を飲む。

 すっかり冷めきったお茶を胃に流しこんで、ため息を吐く。

 頭の中は、同じことが反響して、痛いほど震える。

  それにきっと、彼女も似たようなことを考えているだろう。

 考えて、いて、ほしい。

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