第5話


 翌朝。眩しい光が瞼を貫き、脳を無理やり覚醒させる。

 起き上がると、天井がいつもより遠い。それに、テーブルが近い。

 ぼーっとする頭で、昨日のことを思い出そうとするよりさきに、ふわりといい香りがキッチンから漂ってくる。

 それから、じゅー、とものが焼けるいい音も聞こえてくる。

 くるりと振り返ると、彼女がキッチンに立って、パタパタと動き回りながら、鼻歌をうたっていた。

 その服は昨日着ていたものではなく、動きやすそうなジーンズに、デフォルメされたクマの絵が描かれたTシャツだった。

 夢では、なかった。

 そうだ、あのあと部屋に戻ってきて、片付けをしたあと、布団を敷いてベッドを整えたのだ。

 自分がいつも使っているものだから、敷布団と掛け布団、枕を床に引きずり降ろして、予備の布団をかけなおして。

 そうして空いた収納スペースに、ゲームソフトや色んなものを詰め込んで……

 そして、布団に腰をおろした途端に凄まじい眠気に襲われて、気づけば朝だった。そういうことだ。

 納得を飲み込む代わりに、欠伸がこみ上げてきて、ぐっと体を伸ばす。パキパキと関節から音がしたのに、彼女が気づいて、声をかけてくれる。

「朝ごはん、もうすぐできるから、シャワー浴びといで」

 柔らかく微笑むその姿に、何故か母の姿が重なる。それだけでなく、これまでプレイしてきたギャルゲーエロゲーその他色んな作品の推したちのような、包容力を感じて心を撃ち抜かれるが、ぽけっとしすぎてしまった私に、

「早くしないと、焦げ焦げになるか冷めたもの食べることになるよ」

 そう言う彼女の声で正気を取り戻した。

 

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