第4話
腹いっぱいご飯を食べたあと、2人で出した結論は、鏡を通して彼女の世界と私の世界が繋がったのだ。という、なんともファンタジーなものだった。
ありえない。そう言いたいが、彼女と歩く道の所々で、お互いが真逆の感想を語り合うのだから、否定しがたい。
あの家の犬は大変臆病だ。いや、勇敢だ。
あの家の桜は毎年見事に咲く。 いや、数年前に枯れた。
あの駄菓子屋が潰れて、8年経った。いや、8年前に新しく開店した。
ことごとく真逆なのに、2人とも見ているものは同じ。
その違和感に、なんとも言えない寒気が走る。
もしかしたら、彼女は私と真逆の、異なる世界線の、同一人物なのだろうか。だとしたら、納得は行くけれど……
ファミレスからの帰り道。長く続いた会話の間に生まれた、数分の沈黙。その中で思い至ったことを、私は口にはしなかった。
そして、それより大事な話をしなくては。
今日君は、どこに泊まるのだ。と。
「貴方の家に泊まるよ。さっき気づいたけど、私今お金ないみたいだから。それに、もうこんな時間だから、ビジホの予約も難しいし、ネカフェは怖いから」
それもそうだ。そもそも、ここから近いビジホまで1時間はかかる。ここは田舎の住宅街なのだ。
仕方がない。女性と2人で夜を明かすなんて、死んでからもありえないと思っていたけれど、腹をくくろう。
わかった。それなら、好きにしてほしい。自転車で行ける距離に、24時間空いているスーパーがあるから、必要なものはそこで。お金は、私がだす。
そう言って、彼女に財布を渡して、さきに自宅へ戻る。
夜遅くに、女性1人は危ないからと家に泊まることを了承した矢先に単独行動させるのはどうかと思ったが、下着を始めとして買い物風景を見られたくはないだろう。
それなら、ある程度部屋のものを片付けて、布団を敷いて待つほうが健全だ。
幸い、この時間なら警察もきちんと巡回をしている。何かあれば、国家権力に任せよう。
そうして、アパートの前で別れた私たちが、次に顔を合わせるのは、翌日のことになるのだった。
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