現代社会が直面している「表現の自動化」という不気味な過渡期を…

現代社会が直面している「表現の自動化」という不気味な過渡期を、鮮やかな筆致で切り取った風刺の効いた一作だと感じました。

対照的な「AIとの関わり」が描く悲喜劇物語の前半と後半で、AIの使い方が対照的に描かれている点が非常に示唆に富んでいます。

賢人と史雄のパート、友人を救うための「嘘」としてAIが使われますが、それは皮肉にも「人間らしいフィードバック」を偽装することで、史雄に生きる希望(=執筆への情熱)を与えます。しかし、それは同時に「救済という名の欺瞞」であり、賢人自身の良心を蝕むという、テクノロジーがもたらす精神的な袋小路が描かれています。

保坂優香のパート、承認欲求(星)をショートカットするためにAIを使いますが、その結果、彼女は「産みの苦しみ」という報酬を自ら捨て、創作的な安楽死を遂げます。「星」という数字の誘惑に負けて過程を捨てた者と、偽りの愛に執筆の熱源を依存した者。どちらもAIによって「人間らしさ」の核を失っていく過程が、非常に残酷かつリアルに描写されていました。

三つの「AI(逆説的定義)」の鋭さ物語の核心部で提示される、名作の条件としての3つの「AI」という解釈には膝を打ちました。
Above Imagination 想像を超える、読者の裏をかく創造力。
Accidental Identity 偶然の共感、潜在意識に触れるような、予期せぬ自己投影。
Accompanied i-Body 身体性を伴う経験、痛み、熱量など、生身の人間だけが持つ「質感」。

最後、出版社側の視点が加わることで、物語のスケールが一気に広がります。
「AIが書き、AIが感想を送り、AIが下読みする」という、人間不在の自意識の空転が、まさにWeb小説界というミクロな世界から社会全体への警鐘となっていました。

しかし、ラストシーンで編集者たちが「青山翠雲」という一筋の光を見出す場面には、文学に対する一縷の希望が託されています。どれだけ「佃煮のような世界」や「AIの海」が広がろうとも、そこに魂を揺さぶる一編があれば、人間はそれを見つけ出そうとする。その熱っぽさが、読後の救いになって安心しました。

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