妻が愛でる人形。その狂気。

Yukl.ta

妻が愛でる人形…その狂気。

…最近、妻が愛する人形が、だんだんと亡くした娘に似てきている。



幼い娘を亡くした。

妻の運転する車が事故に遭ったのだ。

怪我を負った妻は娘の葬儀にも立ち会えなかった。

以来。妻は罪悪感に取り憑かれたままである。

僕達夫婦を支配するその喪失の哀しみは、永遠に続くと思われた。


このままでは、妻は罪悪感で狂ってしまう!


ある時、僕は悲嘆に暮れ続ける妻に、人形を渡した。

妻の悲しみが薄れるならばと思い。

その人形の長い黒髪は、まるで娘の生き写しだった。


「○○ちゃん!」

人形を抱きしめて、歓喜する妻。

愛おしげに人形の髪を櫛で鋤く妻。

慈しむように人形を浴槽に浸ける妻。

育むかのに人形の口に飯を詰め込む妻。

母のように人形と寝起きを一緒にする妻

まさに親子の営みを繰り返すかのような妻。


そんな人形を溺愛する妻を見て僕も安堵する。



…最近。

その人形が、だんだんと亡くした娘に似てきている。



ある日。

僕は妻に秘密で、娘の墓を暴いた。

娘の小さな墓の中には…


な に も 入 っ て い な か っ た。










妻が愛でる人形。

その人形が、だんだん娘と入れ替わっていく光景を見て。

…僕は、また家族3人で過ごせる事に喜びを感じている。

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妻が愛でる人形。その狂気。 Yukl.ta @kakuyukiyomu

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