火車
腎臓癌だった。
老けた兄は、少し困った顔をして抗がん剤や手術を拒否した。
最期にはうわ
葬儀は
子供たちにとっては、殆どビデオ通話越しに話す遠い親戚でしかなかった。兄の遺体が寝かせられた部屋の外で、兄弟が廊下で足音を響かせていた。
兄にとって、飼い猫が家族だった。
外で怪我をしていた野良猫を拾ってきたのだという。毛並みから
その飼い猫が
白装束に身を包んだ彼の首筋には、奇妙な噛み
もう永遠に語られることはない。その死に顔を眺めていると、障子の外で騒ぎが大きくなった。息子たちだろう。
「こんなときぐらい、静かにしなさい」
障子から顔を出して、まだ中学生と小学生の兄弟を叱った。彼らは言い訳がましく言った。
「猫がいるんだよ」
「猫?」
「うん、ぶち猫。捕まえようとしても、すばこっしいんだ」
頭の中に、兄が以前飼っていた猫の毛色を思い出した。その名の通り、斑の黒褐色をしていた。まさか。くだらない考えを振り切り、兄が寝ている室内を振り返った。目を
抜け
「お母さん」
彼らは夜の庭に立っていた。どうやら火葬場の方を見上げている。廊下に出ると、妙に空が明るかった。中学生の兄が指差した。
指し示した先に、火葬炉の煙突があった。その頂上に、
白い装束を着ており、
飛び去った後には、散った炎の
妖猫 二ノ前はじめ@ninomaehajime @ninomaehajime
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