17.狙撃銃《ライフル》

 脳が強く揺さぶられる。

 小さな体は押しつぶされ、地面に叩きつけられた。


 何が起こったか理解する間もなく、耳をつんざく破砕音が闇に響く。

 ヨウは思わず顔をしかめた。


 温かい何かが頬を伝い、目を開けるとヨウを押し潰す広い肩に血が滲んでいた。


「ハ――」


 思わず出しかけたヨウの声に「しっ」とハクが声を出す。ハクが舌をはじき音を鳴らす。


『静かに』


 短いハクの音にヨウはコクコクと頷いた。ハクは背中の鞄から瞬時に取り出した狙撃銃ライフルを空に向け、その弾道が一本の軌道を描いた。

 銃口が火を噴き、激しい破裂音にヨウは耳を押さえた。


『干渉弾だ。数十秒は姿を眩ませられる』


 ハクは音を立てると軽やかに身を起こしヨウを引き上げた。お礼を言う暇もなく街路沿いの石造りの外壁に身を隠す。


 隣にクズ箱が置いてあり、良い隠れ蓑になっていた。

 銃弾の方向から隠れる位置に身を置くと、視線を空に向け手でヨウを呼ぶ。


『とりあえず、相手の位置を把握しよう』


 慣れた様子のハクにヨウはただ頷いた。ここは彼に任せるのが最善手だろう。

 

 ヨウもハクを真似て舌で音を立てる。


『アイテはかいらう――』


 慣れないことをしたために、思ったより上手に音を立てられない。ハクが一瞬呆れた視線を向け、舌で音を立てる。


『喋るのはいい。俺のは出すな』

  

 彼の手は狙撃銃ライフルに当てられたまま、新しい弾丸を込め直していた。


 ヨウは恥ずかしさで顔がほんのり火照ったが、取りあえず頭を振り意識を戻す。

 遠くの音まで聞こえる狙撃手相手に、「誰と」いるかを悟られないための暗号らしい。


「相手は害雷?」


 ヨウの小さな声にハクは静かに頷いた。

 ハクは狙撃銃ライフルをクズ箱の上に設置し、舌で音を立てる。


『お前、以前クラヴィスの居場所を特定しただろ?』


 ヨウは本部に備え付けた響鳴装置を思い出す。およそ人間サイズの大きな基盤だ。


『あれを使うことは出来ないのか?』


「出来ない」


 ハクはただ頷いた。そして――僅かに、顔をしかめる。


『来るっ』


 同時にハクの狙撃銃ライフルが激しい音を立てて空気を揺らした。

 思わずヨウは耳を塞ぎ、目を閉じる。


 先ほどよりもをまき散らした弾丸は、神経を逆なでる金属音と共に宙で砕けた。


 同時に数レゾンm先で音速の弾丸が壁に衝突する。耳を裂く異音の連鎖にヨウは肩を震わせた。


『外したか?』


 ハクは何でもないというように静かに立ち上がった。


『行こう』


 ヨウが彼を見上げると、彼の茶色く染めた短髪が夕陽を吸ってほんの一瞬黒く反射した。



 ◇



 倭国サザミナ区。その一角にある高くそびえる棟の上で、男は一人悪態をついた。


「外したか……、いるな」


 正確な物の位置を把握するための一弾目の反響核コア弾。続けて発射した狙撃ライフル弾。

 それは、何もなければ少女の足を貫き、確実に獲物を仕留めるはずだった。


 それがかわされた。

 

 偶然かと思い、後続の反響核コア弾を発射したがそれは干渉で粉砕された。


 聞いていた報告では、少女は銃器ライフルの扱いに長けてはいない。


「ともすれば亡霊こぞうか」


 先日不服そうに亡霊ハクの潜入を申告していた小童クラヴィスの顔を思い出す。


「師匠にかかってこようとはいい度胸じゃねえか」


 男は自身のおよそ2分の3程度の大きさを誇る狙撃銃ライフルを構える。


 銃口の上に取り付けられた射音装置スコープが高周波の音を生み出し、街の構造を読み取るスキャンする

 

 一度捉えた少女の反響映すがたを、害雷おとこが記憶している。


 

 倭國サザミナ区――閑静街――その一角――位置、およそ248セルツkHz

 

 

 そこに立つ少女の虚像を害雷おとこの耳が捉える。

 そのすぐ傍にすらりと高い、見知った人影が一つ。


「やはり亡霊こぞうか」


 まあいいだろうと男は狙撃銃ライフルを構えた。


 風速およそ2レゾンm毎秒。

 距離、2548レゾンm

 弾速、音速マッハ3.22。

 回転率、4800 rps。


 男は機械的に動作を回す。音に共鳴し、銃口をずらす。


 一撃目は反響核コア弾――およそ目標物に発射された弾丸は、目標近くの障害物に衝突し、粉砕し、激しい振動波スキャンを生成する。

 

 続く二撃目、狙撃ライフル弾――一撃目で測定した振動スキャンに合わせ、目標物を補足し迎撃する。


 耳が捉える2人の反響映すがた

 その背の高い方の人影が、何かを構え異音をまき散らした。


 音がぶれ、2人の影にノイズが混じる。歪んだ人影が歩を進め大きな建造物の陰に身を潜めた。現在位置からは直接射撃出来ない位置。


 男はニヤリと笑みを湛えた。


「小賢しい。炙り出すまでだ」

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